今年10月に始まる消費税の「インボイス(適格請求書)制度」。その実態は、クリエーティブ産業など日本経済を支えてきた「フリーランス」という働き方を破壊しかねないものだ。事業者同士に「デス・ゲーム」を強いる残酷なその実態とは。ジャーナリストの斎藤貴男さんが調べた。
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「これは税務署も含めて誰一人として得をしない、幸せになれない制度です。実質的には増税でしかないものの負担が、誰に押し付けられるのかという問題。私の場合だと発注先の声優やアニメーター、スタッフさんたちに背負わせるのか、自分が被るか。いずれにしても立場の弱いほうが犠牲になる。そこに至るやり取りをすること自体、信頼関係を壊し、溝が深められてしまう可能性もありますね」
植田益朗氏(67)が筆者の取材に語った。「機動戦士ガンダム」「シティーハンター」「犬夜叉」などの名作を手掛けたアニメプロデューサーにして、現在はコンテンツの企画・製作会社「スカイフォール」の代表が、この10月からスタートする「インボイス制度」に対する憤りを隠さない。
「アニメはもちろん、文化や芸術の世界に飛び込んでくる若者がいなくなりかねない。大切なのは裾野の広さです。あの宮崎駿(はやお)さんにだって、長い下積み生活があったんですから」
インボイスとは、「適格請求書」のことだ。個々の商取引において、正確な適用税率や税額などを明記した書類。標準税率10%と軽減税率8%(飲食料品および週2回以上発行される新聞の定期購読)が混在する現行消費税税制に対応した仕組みだと、徴税当局は説明している。
制度化されると、売り手は買い手に求められたらインボイスを交付しなければならない義務を負う。ただし交付資格が与えられるのは登録された「(消費税の)課税事業者」だけ。年商1千万円以下の「非課税事業者」は、税務署に同様の登録を申請し、自ら免税の立場を返上して「課税事業者」とならなければ、資格を得ることができない。