表作成の参考文献:『介護福祉士国家試験受験ワークブック2023 上』(中央法規出版)[週刊朝日 2022年12月2日号より]
表作成の参考文献:『介護福祉士国家試験受験ワークブック2023 上』(中央法規出版)[週刊朝日 2022年12月2日号より]

 介護職や医療職の人が絶えず出入りするようになり、「あぁ本格的な在宅介護生活に入ったのだ」と、隣の区に住む記者は覚悟した。

 転倒で生活が一変する前も末っ子である私は親離れができておらず、ことあるごとに電話をかけてこう尋ねていた。

「何か困ったことはない?」

■家の中の異臭 介護のきっかけ

 母はいつも突き放すようにこう返すだけだった。

「助けてもらいたい時になったら、ちゃんと言うから。大丈夫、心配しないで。ありがとう」

 とはいえ、「みそ汁を作るのに1時間もかかっちゃって」と笑って言う母の話を聞くと、「包丁でけがでもしたらどうしよう」と不安になった。時間ができれば母が好きな肉じゃがを作って持参したり、大好きなりんごや柿の皮をむいて届けたり。掃除や洗濯もした。

 目が悪くなってからも家事をこなしていた母だが、5、6年ほど前から徐々に家が片付かなくなっていた。食卓の上には耳かきや請求書、食べかけのお弁当や開封済みのアーモンドの袋などがあり、食事の時はそれらをどけてからお皿を置くような状態だった。冷蔵庫には賞味期限の切れた食材があふれている。廊下には段ボールがたまり、ほっておくとゴミ屋敷になりかねなかったので、私は実家に行くたびに片っ端から片付けていた。

「あなたが来るとゴミが大量に出る」

 母からはよく皮肉めかして言われた。私が台所に入ることを拒んだので、母の電話中に急いで音が出ぬよう洗い物をしたり、トイレに行った隙にゴミの仕分けをしたりした。瓶や缶の音に敏感だからだ。気づかれた時は「余計なことをしないで」と怒られた。けんかになることも多かった。

 今思えば、両親の家だし母の人生なのにずいぶん勝手なことをしたな、と後悔しきり。食器もだいぶ処分したし、家具の移動もした。母が長年使っていた座椅子の座面は浅く椅子からずり落ちそうだったので福祉用の椅子をプレゼントし、取り寄せたカタログから自助具や福祉用具も買った。

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