91年に策定された最初のマスタープラン
91年に策定された最初のマスタープラン

 特筆すべきは、こうした計画を全て住人の手で作っていることだ。計画を練る際に専門家の意見を聞くこともあるが、何をどう進めていくかを決めるのはあくまで自分たち。特に専門的なことに詳しい人がいるわけではなく、実際に最初のマスタープランを立てた際のメンバーは、めっき工場勤務、呉服店勤務、菓子店勤務、染め工場勤務、税理士事務所事務員、役所勤務と、いわば“畑違い”の6人だった。

「自分たちのマンションを、これからどうしていくのかということを、自分たち以上に真剣に考える人はいません。何より所有者目線でマンションを運営していくことが、長く住みやすい住まいづくりにつながると思います」(佐藤さん)

 これまでに3回の見直しを経て策定されたマスタープランは、総会議案として全会一致で採択されてきた。プランは実行してきた取り組みの振り返りに始まり、区分所有者の状況、売買価格の推移、将来の人口動向予測などまで網羅し、見直しのたびに住民向けに説明会を開催して意見交換の場も設ける。このプランが軸となり、財政の見直しに始まり、将来の建て替えに備えた用地取得、地域との交流の場となるコミュニティーカフェの開設、子育て世代の入居を促すための施策など、さまざまな取り組みを行ってきた。

 こうした取り組みをスムーズに行うためには、円滑な合意形成が欠かせない。実際に、西京極大門ハイツでは、総会決議の主要議題で、毎年ほぼ100%の「賛成」が得られているという。その裏には、長年の試行錯誤による“知恵”がある。

 一つ目が、「総合計画」でもあるマスタープランの存在だ。このマスタープランは、実は合意形成を得やすくするための知恵の一つでもある。いわく、「総合計画というものは反対が出にくい」(同)。総合計画は方向性を示すもので、「いろんな取り組みを進める際に、理屈付けとして使いやすい」という。

「多くの住民は、マンションのあり方について、それほど関心がなく、今より負担が生じず良くなるならそれでいいと考えている。そうした人たちが、賛成せざるを得ないような話の持っていき方をすることが大事です」(同)

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