こうして、平安初期から江戸期まで脈々と流れてきた700年の物語を柴橋は発見し、「歌枕」というかつて日本人の中に存在した精神世界を、展覧会として世に問うことができたのだ。

 柴橋は、博士課程にいながらなかなか博士号がとれず、就職もできず、サントリー美術館に職を得たのが30歳になろうとしている時のことだった。現在39歳。

「どうしたらそこにいけるのか?」という問いに対する柴橋の答えはこうだ。「歌枕」はまさにそのためにある。「想像する力があれば、そこにいける」

 想像する力があれば、か……。いいな。

 私は柴橋の答えを聞きながら、ある一人の作家の旅のことを考えていた。

 彼の旅も、その旅の後、50年近くたった今も人々に影響を与え続けている。

 以下、次号。

下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。

週刊朝日  2022年9月2日号

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。元上智大新聞学科非常勤講師。

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