「自分を妖怪にたとえさせるんです。妖怪の名前と絵、生息地とか長所や短所を細かく書かせる。自問自答しながら、自分を妖怪化すると、不思議と短所が長所に変わってきたりして、それまで自分のことが嫌いだった学生が、『あれ? 自分、結構かわいいじゃん』みたいに思えるものなんです(笑)。今、僕が担当している学生は50人いるので、50人分全部コピーして渡すと、妖怪図鑑ができあがる。それを見ると、自分だけの悩みだと思っていたことが、友達と一緒だったり。お互いの長所だけじゃなく短所も受け入れることができて、それぞれ認め合えます。僕は、授業といっても、お金をいただいているからには、やっぱり喜ばせてあげなきゃいけないよな、という使命感を感じてしまう。だから、知識を得たり、自分や友人を好きになれる喜び以外にも、最近は、食べ物で釣ったりしています(笑)。授業が1限で、ご飯を食べないで来る学生もいっぱいいるので、みんなにお菓子を渡して」
たい平さんが、日常の中にある幸福なもの、美しいもの、楽しいことに敏感になったのは、高校のときの美術の先生の言葉があったからだ。
「受験のときに言われたんです。『毎日良い映画が見られるわけじゃない。毎日素晴らしいお芝居が見られるわけでも、毎日美術館に行けるわけでもない。だからこそ、何げないものに感動する心を養いなさい。空に浮かぶ雲や、道端に咲く花を見ては美しいと思える、そういう心を養っておきなさい』と。その先生の言葉はずっと心に残っています」
(菊地陽子、構成/長沢明)
※週刊朝日 2022年8月5日号より抜粋