■没頭できる趣味 ストレス少なく

徳川慶喜(福井市立郷土歴史博物館提供)
徳川慶喜(福井市立郷土歴史博物館提供)

 15代続いた徳川将軍のうち最も長生きしたのは最後の将軍、慶喜だった。家康を上回る77歳で天寿を全うしている。前出の早川教授は言う。

「明治に入り、衛生環境の改善や西洋医学の普及が進んだ影響もあるでしょう。でも慶喜が長寿だった大きな要因は将軍職を離れ、趣味の世界に生きたことではないでしょうか」

 慶喜が将軍職を離れ、江戸城を明け渡したのは1868年。30代前半とまだ若かった。その後は気候が温暖な静岡や東京で写真や狩猟、囲碁、謡曲といった趣味に没頭する生活を送った。

「現代の疫学調査では、夢中になれる趣味があると認知症の発症を予防できる傾向があるという説もあります。また慶喜は洋食が好きで、ビタミンB1やたんぱく質が豊富な豚肉をよく食べたと言われています。バランスのよい食事も長寿だった要因の一つでしょう」(早川教授)

 老後も夢中になれるものがあったおかげで長生きにつながった可能性がある人物として、医師で作家の米山公啓さんは、日本画家の横山大観と小説家の武者小路実篤を挙げる。

「2人に共通するのは自己肯定感が強く、比較的ストレスの少ない生活を送っていたように感じられる点です。没頭できることや生きがいがなければ心身ともによくない。診察を通じて患者と接していると、ある程度高齢になれば、生活習慣よりもむしろ、そういった面のほうが大切なように感じる。今は平均寿命も延び、老後は長い。いかに頭を使い、前向きに生きられるかが重要になるでしょう」

 ポジティブに生きれば、人とのつながりは増えやすいし、医療や健康に関する情報や知恵も得やすくなる。早川教授はこう話す。

「長寿の偉人の多くに共通するのは、進んだ医療技術や治療法に対して、偏見を持たずに取り入れようとしていた点です。医師や周囲の意見によく耳を傾けていた。それは現代人が健康を保つうえでも重要なことです」

 元気で長生きするためにも、歴史人が残した教訓に目を向けてみよう。

(本誌・池田正史)

週刊朝日  2022年6月17日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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