ロシア軍の砲撃で破壊されたウクライナ東部の都市ハルキウの集合住宅(Getty Images)
ロシア軍の砲撃で破壊されたウクライナ東部の都市ハルキウの集合住宅(Getty Images)

「ロシアが怖いのは、いつも総力戦で膨大な死者を出しながら戦争に勝ってきたことです。ナポレオンのロシア遠征の時もそうだったし、第2次世界大戦の独ソ戦では2500万人もの死者を出しています。人命が損なわれることに対する抵抗感が低いと言わざるを得ず、だからこそ、今回の紛争でも自分たちが『勝った』と言えるまで、戦闘を続ける恐れがあるのです」

 では、具体的にどう停戦を促すのか。ここで考慮すべきは国連の活用だ。

 今のところ有効な手を打てていない国連だが、本来はもっと大きな役割を果たせるはずだという。石破氏が好事例として挙げるのが、1956年の第2次中東戦争時の国連の対処だ。エジプトのナセル大統領が突如として、スエズ運河の国有化を宣言し、運河で利益を得ていたイギリスが怒り、フランス、イスラエルとともにエジプトに侵攻した(スエズ動乱)。

「イギリスもフランスも常任理事国ですから、国連安保理は機能不全になりました。そこで当時、カナダのピアソン外相の働きかけで国連のハマーショルド事務総長が緊急総会を開き、停戦、撤兵決議を行った。国連が本腰を入れたことでイギリスとフランスも従わざるを得ず、停戦が成立したのです。国連は国連緊急軍を現地に派遣して、停戦監視を行いました。国連は無力でないことがわかります。では、いま日本がなすべきことは何か。こうした歴史的経緯や国際法を精査して、国際社会とともに、まずは停戦状態をつくることに尽力すべきです。口を極めてロシアを非難しても何も解決しません」(石破氏)

 スエズ動乱時の国連緊急軍が今日の国連平和維持活動(PKO)の原点になっているわけだが、今回は停戦をより困難にする要素がある。ロシア軍にはシリアの傭兵が投入されているし、チェチェン共和国のカディロフ首長の私兵組織「カディロフ部隊」はキーウ近郊のブチャでの民間人虐殺に関わったとされる。ウクライナにも傭兵や志願兵が多く存在する。前出・伊勢崎氏が説明する。

「こうした正規軍ではない人たちは、軍法の管轄下にないから戦争犯罪を起こしやすいのです。停戦合意が成立しても命令を聞かない恐れがあります。戦争が長引けば長引くほど、両国政府の指揮命令系統が利かなくなる。どんなに心情的に納得できないにしても、停戦合意を進めるにあたっては、戦争犯罪はいったん棚上げするのが定石です。早急に停戦監視団を投入する必要があります。講和後、速やかに中立性のある捜査機関によって、戦争犯罪の証拠集めをするのです」

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