2014年にロシアが併合したクリミア半島は飛び地であり、東部の親ロ派支配地域とつなぐ回廊を確保するためにも、ロシア側にとってマリウポリの制圧は欠かせなかった。港を再開し、ロシアからの海上輸送の拠点にする意向だ。さらに攻撃対象として視野に入れるのが南部のオデーサだが、ロシア軍はドンバス地方全域で戦闘を続けているものの、ウクライナ側の強い抵抗に遭い苦戦を余儀なくされている。

 国連職員として世界各地で紛争処理に当たってきた、東京外国語大学教授の伊勢崎賢治氏はこう力説する。

「いまならば、ロシア、ウクライナ両国が戦闘をやめる口実が成り立ちます。即時停戦を実現するべきです。ロシアはクリミアにつながるマリウポリを陥落させ、プーチン大統領はネオナチと名指ししていたアゾフ連隊を降伏させたことで『非ナチス化』の大義名分になる。国内向けに軍事作戦の成果があがったと言えます。ウクライナは各地でロシア軍を押し返し、ゼレンスキー政権を転覆してウクライナ全土を占領しようとしたロシアの野望を阻止したと言えます。このまま戦闘を続けても、死者が増えるばかりです」

 もっとも、伊勢崎氏はロシアにウクライナ一国を占領統治するほどの軍事力があるとは見做していなかった。プーチン氏にも当初からその意図はなく、だからこそ首都キーウから撤退したと見る。

「米国ですら、20年もかけてアフガンの占領統治に失敗し、撤退したのです。ロシアに異国を征服する力はありません。ロシアの狙いは、オデーサまで落とし、黒海沿岸を制圧してウクライナを内陸国にしてしまうことです。ウクライナは小麦など穀物の輸出大国ですから、黒海を通じた航路が使えなくなるので経済的にもダメージを与えることができる。また、この一帯はすごい量の原油が眠っているのです。しかし、いまの戦況を見ればその目的も難しくなっています。厭戦気分も高まっているはずです」

■国連が機能したスエズ動乱停戦

 戦局は今後、さらにロシアに不利になっていくとみられる。米国のバイデン大統領は「武器貸与法」を成立させ、長期的なウクライナへの軍事支援を可能にした。すでに米国は対戦車ミサイルや地対空ミサイルなどを供与。ドイツも対空戦車50台を提供している。

 ここまで来たらウクライナ側の「勝利」を目指すべきだという声も出てきているが、前出の石破氏はこう指摘する。

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