室井佑月・作家
室井佑月・作家

 作家・室井佑月氏は、国の防衛力強化のために、防衛費の増額を提言した自民党に苦言を呈する。

【この記事の画像の続きはこちら】

*  *  *

 4月22日の東京新聞に「武力による抑止前面」という記事があった。

「自民党安全保障調査会は二十一日の全体会合で、『敵基地攻撃能力』の名称を『反撃能力』に変更し、対象に司令部など『指揮統制機能等』を追加した上で、政府に保有を求める提言案を了承した。防衛費は、国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に、五年以内の増額を提言した」

 提言案では、中国と北朝鮮、ロシアの軍事動向で安全保障環境が「加速度的に厳しさを増している」からと説明している。なんだか、他国の戦争に便乗しているようだ。というか今、国民の生活がかなり厳しいという現実を、すっかり忘れているような……。

 GDP比2%に引き上げるには単純計算でおよそ6兆円の増額になるらしい。公明党の山口代表もこういっていた。

「どこから財源を見つけるのか。社会保障を削る、教育子育てを削るということに国民の理解は求めにくいし、増税はもっと困難だ」って。

 だいたい「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」に言い換えたところで、結局は先制攻撃ではないのか?

 これは、敵のミサイルを撃ち落とすのが難しいから発射基地を叩くという発想なわけで、憲法に書かれている相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使する「専守防衛」とは違うのでないか。しかも、今は北朝鮮のミサイル発射拠点なども潜水艦に変わっていき、発射基地を特定して叩くという考え方は、時代遅れともいわれている。

 けれど、どうしてもやりたいのは、防衛費に利権が絡んでいるからだろうか。それとも、自民党の政治家たちは、アメリカに請われたら請われるままさっさと動くのが、日本の政治家である自分の身のためとでも考えているのだろうか。

 提言案では、「防衛装備移転三原則」を緩和するそうだ。ロシアに侵攻されているウクライナへ、「防弾チョッキ」を送っただけではいけないのか。アメリカにもっと貢献しろ、といわれているのかもしれない。

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら
次のページ