医療費の増大をはじめ課題が山積する医療界では、経済的視点からのアプローチに注目が集まっている。医師であり経済学博士でもある真野俊樹氏に、今後の医療制度と医師の将来について語ってもらった。

【データ】個人負担医療費のGDP比

「長らく医療界は、医学・看護学・薬学などいわゆる医療系の学問に支えられてきました。ところが高齢化や医療の高度化などにより医療費が増え続け、医療に財政面での制約が生まれています。現状の国民皆保険の仕組みにおいて、医師が必要だと考える医療ができなくなる可能性が出てきたのです」

 こう話すのは、医師であり、中央大学大学院教授として医療経済学を専門とする真野俊樹氏だ。真野氏はこうした医療をめぐる状況を分析するのに「医療経済学」が有効だと語る(上の図)。

 「医療経済学は、英語でHealth Economicsといい、欧米圏では1960年代から研究されてきました。その対象は国民医療費から個別の疾病に対する費用、医薬品、医療保険など多岐にわたります」

 真野氏が医療経済学に関心をもつようになったのは、90年代後半に米国に留学した際だった。しかし、当時の日本では医療経済学はあまり普及しなかったという。

「医療経済学では、医療行為及びその一部を経済行為とみなし、分析・透明化します。医療経済学のメインは分析や透明化ですが、日本ではお金で医療を左右するイメージがあり、『命をお金で測るのか』という抵抗感が強く、受け入れられなかったのです」

 しかし、当時と比べて日本の国民医療費が膨れ上がる現状では、医療に経済の視点を取り入れることが求められている。

「2020年度の日本の国民医療費は約42兆2千億円でした。コロナ禍による医療機関の受診控えにより前年度から3・2%減となりましたが、8年連続で40兆円を超えています」

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日本の医療を支える薄給と長時間労働