帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「平常心はいらない」。

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【ときめき】ポイント
(1)「平常心を築くにはどうしたら」とよく聞かれる
(2)私はいつも「平常心は必要ありません」と答える
(3)生命を躍動させるためには心が留まっていてはダメ

 講演をして聴衆のみなさんから質問を受け付けると、「平常心を築くにはどうしたらいいのでしょうか」と聞かれることがよくあります。そのとき、私はいつも「平常心は必要ありません」と答えることにしています。

 歳を取ると、心が落ち着いてきて、平常心を保てるようになるはずだ、と思われているのでしょうか。それとも、心が揺れ動くことが多くて大変なので、平常心を持てるようになりたいと願う人が多いのでしょうか。

 私は歳を取っても、心は揺れ動くもので、それでかまわないと思っています。むしろ、心が揺れ動くことの方が重要なのです。なぜなら、それは心のときめきにつながるからです。

 生命のエネルギーを高めるには、心のときめきこそが大事だと考えている私には、どっしり構えている人より、オドオド、ビクビク生きている人の方が好ましく思えます。そちらの人の方がときめきへの感受性が強いように感じるのです。

 直木賞もとった売れっ子の女流作家さんと対談をしたことがあります。その人が実にいい感じでオドオド、ビクビクしていらっしゃるんですね。話すと、とても感受性の豊かな方であることがわかりました。作家が大家になってどっしり構えてしまっては、もう終わりです。それと同様に、歳を取っても、生命をみずみずしく躍動させるためには、平常心などと考えない方がいいのです。

 ところが困ったことに、私が愛読している『戦略は直観に従う』(ウィリアム・ダガン著、東洋経済新報社)には平常心が大事だと書いてあるんですね。それは戦略理論家として名高いクラウゼヴィッツについて書かれたくだりです。クラウゼヴィッツはナポレオンの戦局眼を分析して、戦略的直観を生み出す4段階について語っています。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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