◆“手当て”で蘇生 危篤の母に奇跡

 山本さんにハンドセラピーを学び、暮らしに役立てている人がいる。大阪府在住の山中弥寿子さんは、義理の父が交通事故に遭い入院したとき、面会のたびに父の手をとり、さすった。

「寝たきりで意識があいまいでも、みけんにしわを寄せたりほわーんとしたり、表情が変わるんです。誰が触っているかもわかるみたいで、笑顔で孫の手をくすぐり返すこともありました。しゃべれなくても、触れあうことでその日の調子がわかる。コミュニケーションがとれました」

 脳梗塞の後遺症で左半身不随だった実母の介護でも、ハンドセラピーは大きな助けになった。

 左手の関節が固まり、ぎゅっと握りしめてしまう「拘縮」は、手のひらからゆっくりほぐすことでずいぶんと緩和した。認知症になってからは会話がかみあわなくなったが、施術しながら「今こんなテレビやってるよ」などと声をかけると、笑ったり返事をしたりしてくれた。普段の「ぼーっとした目」は、「しゃきーんとした普通の目」になっていた。

 奇跡のような出来事もあった。2年前、体調を崩した母は今日明日もつかわからない状態に。酸素マスクをつけた母の手をいつものようにさすっていると、突然体が電気ショックを受けたようにビクンと動き、呼吸が落ち着いたのだ。

 一時は、手足を動かしたり、ハンドセラピー中にほほ笑んだりするまで持ち直した。そして1カ月後、眠るように息を引き取ったという。

「触れあうことが蘇生につながったのかもしれません。“手当て”という言葉は本当なんだと驚きました」(山中さん)

 浜松医科大学の鈴木みずえ教授(老年看護学)は、高齢者のケアにおいてハンドセラピーが果たす役割は大きいと話す。

「認知症患者の不穏や攻撃性を和らげる効果がある。高齢者施設のスタッフが実践したところ、健康状態の把握と早めの処置につながり、体調を悪化させて入院する利用者が減った例もありました」

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