山本さんの施術を受ける編集部デスク。「手が風呂あがりみたいになってる!」と喜ぶ顔には、赤みがさしていた
山本さんの施術を受ける編集部デスク。「手が風呂あがりみたいになってる!」と喜ぶ顔には、赤みがさしていた

 心身の疲れやこわばりをケアする代表選手といえば、もみほぐしやツボを押すマッサージだろう。一方シニアには手をなでるようにさする「ハンドセラピー」も効果的だという。ソフトでスローな施術がもつ、驚くべき癒やしの力とは──。

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 元看護師の山本千鶴子さんは10年ほど前、「幸齢者ハンドセラピスト」の肩書で活動を始めた。高齢者施設に赴き、利用者の手にそっと触れながらたわいもない話をする。

 その効果について、山本さんはこう話す。「手は最も抵抗感なく触らせてもらえるパーツです。リラックスするうち、うなり続けていた方が静かになったり、普段しないような思い出話を始めたり。会話の内容を施設に伝えて、介護計画に生かしたこともありました」

 シニア向けのハンドセラピーは、ぎゅうぎゅう押したり、もみほぐしたりというものではない。肌を傷めないようハンドクリームやオイルを使って、やさしくさする。

 ポイントは、「相手の手を感じる」こと。決められた手順に従うより、冷たい部分や硬い部分に気づいてあたためたり、どんな触れ方が気持ちいいのか様子を観察したり、「体のご機嫌を伺う」意識が大切だ。

 山本さんは、以前施術した認知症の女性の言葉が忘れられないという。「ハンド中はうとうとしていたのですが、終わって目を覚ますと一言、『あーいいお風呂だった』って。今までで一番うれしい感想でした(笑)」

 一方、こんな失敗談も。「施設の方が、『帰りたい』と訴える不穏の利用者さんをなだめようと連れてきたんです。ハンドを始めようとしたら、『お前はこんなもので俺をなんとかしようとしてるのか!』って怒られました」

 ハンドセラピーの一番の目的は、幸せな時間を過ごしてもらうこと。手を触りながら「早く眠ってくれないかな」と考えたり、「今日は何日だっけ?」と記憶力のテストをしたり、高齢者をコントロールする手段にしてはいけないという。

「相手は人生の大先輩。若造の小手先なんてお見通しです。『ありのままのあなたを受け入れます』という姿勢だからこそ、安心してもらえる。触れるって、言葉よりも気持ちが伝わるものです」

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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