トーマス・アッシュ監督 1975年、アメリカ出身。福島の子どもたちの甲状腺検査や暮らしを写した「A2―B―C」(2013年)、地域の看取り医を追う「おみおくり~Sending Off~」(19年)などを監督。「牛久」は21年、世界各国の映画祭で上映され、複数の賞を受賞している
トーマス・アッシュ監督 1975年、アメリカ出身。福島の子どもたちの甲状腺検査や暮らしを写した「A2―B―C」(2013年)、地域の看取り医を追う「おみおくり~Sending Off~」(19年)などを監督。「牛久」は21年、世界各国の映画祭で上映され、複数の賞を受賞している

 在留資格がなく、国外退去を命じられた外国人を強制収容する東日本入国管理センター、通称「牛久」。その内部にカメラを入れ、収容されている外国人たちの様子と悲痛な叫びを捉えた衝撃のドキュメンタリー映画「牛久」が公開される。トーマス・アッシュ監督が見た日本の現実とは。

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 トーマス・アッシュ監督が初めて「牛久」を訪れたのは2019年の秋だ。

「収容されている人々への面会活動をするボランティアグループに誘われて行ったのです。新聞やテレビで日本の入管の問題を聞いてはいましたが、ここまでのことが起こっているとは恥ずかしながら知りませんでした」

 特に監督が注目したのが、日本に来た難民たちだ。10年から19年の間に日本で難民認定が下りたのはわずか0.4%。それ以外の人たちは、申請を却下され退去強制令書を出される。しかし彼らは迫害を恐れて祖国に帰れない。そうした人々は「不法滞在者」として強制的に無期限で施設に収容される。

「体じゅうを殴られた」「ゴミ扱い」──彼らの壮絶な訴えに驚いたという。

「話を聞きながら『こうしているうちにも誰かが死んでしまうのではないか』と心配になりました。それほど病気になったり、うつになって自殺未遂をしたり、抗議の意味と収容を一時的に解かれる『仮放免』を求めて、80日間や25日間何も食べずにいるハンストをしたりする方が多い。何かがあったとき『なかったこと』にされないように証拠を残さなければならない。その使命感で撮影を決心しました」

 面会での録音や撮影は禁じられている。トーマス監督は当事者たちの了解を得て、「隠し撮り」という手段を選んだ。アクリル板越しに彼らの姿を写し、その言葉を記録した。9人が顔も音声も変えることなく、出演することを許可してくれた。

「一番、印象的だったのは『命が危なかったから逃げたのに、こういうことをされるとわかっていれば、自分の国で死ねばよかった』というピーターさんの言葉です。難民になりたくてなっている人などいません。しかも彼らは日本を選んで来たわけではない。たまたま自分が住んでいた町に日本大使館があった、などの理由で来ているのです」

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