(c)Thomas Ash 2021
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 厳しい規制をかいくぐっての隠し撮りにはリスクも伴いそうだが、

「危険など感じませんでした。彼らは自分たちが体験したことを話しているだけで、彼らには話す自由がある。そもそもなぜそれを録音や撮影ができないのかを考えるべきです。入管は何を隠そうとしているのか、何を恐れているのか。これは日本のメディアのみなさんこそが訴えるべき問題だと思います」

 カメラは、家族と引き離され、自由を奪われ、精神的に限界にきている収容者たちの顔を痛々しく捉える。なかでも衝撃的なのはクルド人デニズさんが8人の職員に囲まれ、床に引き倒される場面だ。「痛い! 痛い!」「私はなにもしていないよ!」と叫ぶデニズさんの体を床に押しつけ、首を圧迫し続けるシーンは、なんと入管側が撮影したものだという。

「デニズさんがこの件で裁判を起こし、弁護士が証拠として入手したものです。こうした撮影は入管内で日常的に行われています。入管側が『自分たちは悪いことをしていない』という証拠にするためです。暴れているから制圧をしている、と彼らは言い張るのです」

 入管職員の悪質さがあらわになる瞬間だが、トーマス監督は抑えたトーンで話す。

「彼らも人間ですし、仕事をしないと生活できない。なにより彼らはそういうふうに訓練されている。なかにはいい職員もいます。上司にNOと言えず、自分たちがしていることに耐えられずに辞めてしまう人もいるのです。だから単純に彼らを責めることもおかしいと私は思います。おかしいのは日本の入管制度の『仕組み』なのです」

 アメリカ出身のトーマス監督は2000年にALT(外国語指導助手)として来日し、中学校で英語を教えていた。初めて手にしたカメラ付き携帯電話をきっかけに映像作りに目覚め、イギリスの大学に留学。大好きな日本に戻りドキュメンタリー作家として活動を始めた。福島の第一原発事故の後、甲状腺被曝に不安を持つ市民を追った「A2‐B‐C」など日本人が目を背けがちなテーマに踏み込んでいる。

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