週刊朝日ゆかりの人による、100年たっても色あせない選りすぐりの名言を振り返ります。作家・林真理子さんの対談連載「マリコのゲストセレクション」より、今回は脚本家の内館牧子さんです。

 連続テレビ小説「ひらり」や大河ドラマ「毛利元就」など、誰もが知る作品を多く手がけてきた内館さん。ヒットを飛ばし続ける秘訣は、体育会系時代に培った強気のメンタルなんだとか。約25年前の対談当時から、仲良しという内館さんとマリコさん。ホンネたっぷりのトークは盛り上がり──。1997年3月14日号掲載

「暖簾にひじ鉄」(2001年1月~)

*  *  *

林:(毛利)元就の人物像をつくるときに、内館さんの知ってる男の人の中から、すごくいいものを精製して、与えていかなきゃいけないわけでしょ。

内館:元就は59歳で立ち上がって、死ぬまでに226回の戦いをやったと言われていて、ちっちゃな中小企業の次男坊が、最後は地球レベルの会社にしちゃった感じなのね。それなのに、手紙を見ると、妻にすごくボヤくの。*中略*(以下、*) 私それまで、「うちの主人、家では仕事のことを全然話さないんですよ」っていう夫をよしとしてたんだけど、元就を知ったとき、これはおもしろい夫婦像だと思って。

林:でも、ボヤく男って、内館さんの美意識からはずれるんじゃない?

内館:元就を調べてから変わったの。自分の恋人とか夫が、外では残酷なまでにいい仕事をやって、私の前ではニャンニャンやってくれるのはカワイイって。* 元就の言葉の中に「本を忘るる者はすべて空なり」というのがあるのね。「本」というのは本業で、本業を忘れた人間は存在価値がないという意味。私、この言葉がすごく好きなの。私、作詞とか、やりたいこといっぱいあるけど、脚本だけはきちんと書かなくちゃと思って。

林:私もこういう対談やらせてもらってるのは、本業をちゃんとやってるという自信があるからよ。

林:内館さんて、いつも前向きで、絶対に弱音はかないから、感心しちゃう。

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