日比野:それはどうでしょう……。林さんのほうがお詳しいんじゃないですか?

林:私もよくわかりませんが、日比野さんみたいな方が、総理の横にいるって、あんまり想像できないな。

日比野:アーティストって世の中にたくさんいて、それぞれの役割があると思うんだけど、僕はきわめることを目指すんじゃなくて、アートの可能性を広めるのが役割じゃないかなと思っています。たとえばいまやっている「福祉と芸術」についてのプロジェクトでは、「多様性」とか「誰一人取り残さない」とか、そういうことをテーマにしているんです。そっちのほうが自分のアーティストとしての役割だと思っているんですよね。だから、あんまり偉そうにするのが似合うタイプじゃないかもしれませんね。

林:日比野さん、もう63歳なんですね。「段ボール小僧」のころから私たちは知っていますけど。

日比野:そうですよね。20代のころからね。

林:日比野さんは段ボールを使った作品で有名ですけど、なんで段ボールだったんですか。

日比野:入学してからはいろんな課題をやるんですけど、大学1、2年生のころ、僕は「自分らしさ」がなかなかわからなかったんです。あるとき、わら半紙みたいな紙に下書きして、ちゃんとしたキャンバスやイラストボードに清書しようとしていたら、大学の友達が、「日比野の性格からすると、わら半紙の下書きのほうが、おまえらしいよ」って。「そうか。こっちのほうがラクだし、いいかも」と思って、画材じゃないもので作品をつくろう、という考えの延長線上に、段ボールが出てきたんです。それが大学3年のとき。

林:そうなんですか。

日比野:そして、当時パルコがやっていた「日本グラフィック展」で大賞をとったのが大学院の1年生のときで、それが1982年。そのころストリートアートとか、雑誌「ポパイ」「ブルータス」なんかが流行り、サブカル的なものがどんどん街にあふれ出していったんですよね。セゾングループの感性に訴える広告展開が時代に受け入れられ、糸井(重里)さんがコピーを書いたり、浅井慎平さんが写真を撮ったりしていました。企業がメセナ(芸術や文化の支援)的な取り組みで、次の若いスターを探していましたよね。林さんのデビューって何年でしたっけ?

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