ヘンリー塚本さんは、AV界を引退した今も、裸のない純愛動画を撮影し、YouTubeに上げて、人気を呼んでいます。でもこうしたいいニュースはごくまれで、業界を駆け巡っているのは、AVが売れないという不景気な話ばかりですね」

◆“作品”を楽しむ大切なお客様

 これにはネットの無料動画の台頭や、中古AVが盛んに売買され、フリマアプリが「レンタルビデオ店化」してセルビデオの客を奪っていることなどが一因になっているらしい。

「とくにマスターベーションのためにAVを買ってくれていたコアの若い購買層が、無料の予告編だけで満足するようになってしまった。作り手から言うと、若い人が倍速で飛ばしがちな部分も含めて“作品”として楽しんでくれる高齢者層は、AV文化の大切なお客さんですよね」

 一方、著述家、プロデューサーの湯山玲子さんは、アダルト動画に走る同年代の男性たちをこんなふうに見ている。

「友人の父親が70代で、前立腺がんの手術をすることになったときのこと。術後は男性機能が不全になるということで、すごく悩んでいたそう。『もう年だし、生殖機能より命でしょう!』と友人は諭したといいますが、手術後めっきり元気がなくなったといいます」

 湯山さんが「原因は手術だけではないかもしれませんが」と断って続ける。

「その話をすると男性からは、『わかるわー』の声が多く寄せられる。その語調の強さからは、高齢者になると性を『ないもの』にできうる女性と違い、男性にとっての性は『俺は男だ』のアイデンティティーなのだな、と。高齢者がAVに走るというのは、いくつになっても性に関わって、男でいたいという願望のあらわれのような気もします」

 しかもかつては文学や、エロ本の写真のすみに書かれたやたらと「……」の多いリード文に欲情した世代にとって、文字やその行間のようなエロを楽しめるAV作品もまだ少しは残っている。

「このハラスメント時代には風前のともしびである、“嫌よ嫌よも好きのうち”という、相手の同意はお構いなしの性的ストーリーが、AVには存在しますからね。妻に嫌われて、思いどおりにできないうっぷんを、過激な征服系のAVで晴らしている人もいそうですが、そういう人はAVを見るより、自身の過去を反省してほしいです(笑)」

 気を付けましょう。(ライター・福光恵)

週刊朝日  2022年1月28日号