延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。高橋三千綱さんについて。

【写真】芥川賞を受賞した高橋三千綱さん

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 来年はどんな年にしよう。年賀状のことを考える季節になり、もう高橋三千綱さんとは年の初めのやりとりができないのだと寂しくなった。

 僕がラジオディレクターだった20代の頃、中野・南台の事務所でラジオエッセイをいただいたり(「ランドセル姿で学校に通う娘さんの背中に切なさを感じる」とか)、府中の東京競馬場でスポーツ紙に赤鉛筆でマークをつけながら馬券を買ったり、出版社の寮を借り切って大宴会をしたり、(文壇名門の?)レッドハッタリーズという草野球チームに入れてもらったり(ライバルはマガジンハウス。三千綱さんは僕に背番号8、縦縞のユニホームを作ってくれた)、ニューオータニのプールで泳いだり(出版社に缶詰めにされているのに、一切原稿を書いてはいなかった)と、弟のように可愛がってくれた。

 26歳で「退屈しのぎ」(群像新人文学賞)でデビュー、「九月の空」が芥川賞を受賞した時は「剣道の試合の描写もしっかりしてうまいが、女学生が出てくると匂うように華やかで、うまい短編に仕立ててある」(瀧井孝作)、「男性の思春期というものを追究し、その本質がいつの時代にも変わらないことを示したのは、手柄である」(吉行淳之介)と絶賛された。

「あけましておめでとうございます。お元気ですか? 今年はぜひ伺って挨拶したいです」。そんな調子の僕に、「そうだな。会いたいな。楽しみにしています」と一言添えてくれた三千綱さんの字は毎年溌剌と元気だったから、僕の中で三千綱さんは若いままだった。

 今年の8月17日、73歳で亡くなったことを知り、三千綱さんの文章に触れたくて、本棚から「九月の空」を取り出した。

 剣道に打ち込む主人公の高校生、勇は木刀の柄がはみ出たリュックサックを背負って東北と北海道へと一人旅をする。

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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