イラスト/ウノ・カマキリ
イラスト/ウノ・カマキリ

 なぜなのか。

 実は、瀬戸内さんが小説を書き始めた当時、瀬戸内さんのあまりにも生々しいセックス描写の小説を、多くの批評家たちは情痴小説、ポルノ小説だと決めつけた。

 それでも瀬戸内さんは、いささかもひるまずに生々しいセックス描写の小説を書き続け、本当に優れた小説を好む読者をどんどん獲得し、批評家たちの評価は変わっていった。瀬戸内さんは批評家たちの認識を変えてしまったわけだ。

 私は、瀬戸内さんに「なぜ出家をしたのですか」と問うた。

「実は、セックスをやり過ぎたので、セックスをやめようと決意して、そのために出家したのです」

「それで、出家してセックスはやめましたか」

「それがやめられなくて、セックスをしては阿弥陀様に謝罪しているのです」

 瀬戸内さんは、極めて真面目に答えた。

 セックスをしても俗世に戻らず、阿弥陀如来に謝罪する、つまりセックスはするが自由奔放ではなく、神を恐れる精神を持っている。私は瀬戸内さんを人間として再認識した思いであった。

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

週刊朝日  2021年12月3日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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