自宅で子どもの結婚パーティーを開催。前列の右から2人目が木村さんの母親(写真・株式会社ハレ提供)
自宅で子どもの結婚パーティーを開催。前列の右から2人目が木村さんの母親(写真・株式会社ハレ提供)

 末期がんの母(当時84)のために「かなえるナース」を利用し、自宅で子どもの結婚パーティーを開いた木村茂子さん(61)。親族の反対がなかったわけではないが、「やってよかった」と笑顔を見せる。

「看護師さんがつきっきりでみてくれたので安心でしたし、何かあったら在宅医を呼べる態勢も整っていました。私たち家族にもいい思い出がいっぱい残りました。母が亡くなって寂しいですが、生ききったという感じがして、悔やまれることはないです」(木村さん)

 厚生労働省の「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書(2018年)」によると、最近5年間で身近な人の死を経験した人のうち、心残りがあると答えたのは42.5%。理由で多かったのは、「あらかじめ身近で大切な人と人生の最終段階について話し合えていたら」「大切な人の苦痛がもっと緩和されていたら」だった。がん患者や家族の精神的なケアを行う精神腫瘍医の清水研さん(がん研有明病院)は言う。

「大切な人の体力がだんだん落ちていき、亡くなっていく場面をみれば、誰でも不安になりますし、何かしてあげたいという気持ちが湧いてくるのは自然なことです」

 一方で、実際に何かをしたという結果よりも、むしろ「それまでのプロセスを大事にしてほしい」と言う。結婚式や旅行などはあくまでも海面に見えている氷山の上の部分であり、海面の下の大きな氷の塊、つまり亡くなりゆく人に対して寄り添うことだったり、対話をすることだったりが、重要なことだという。

「そのためには、終末期よりも前、もっというと健康なときからお互いによく話し合っておくことだと思います」(清水さん)

(山内リカ)

週刊朝日  2021年10月22日号