バージンロードを娘と歩く。ひざには亡き妻みどりさんの遺影 (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
バージンロードを娘と歩く。ひざには亡き妻みどりさんの遺影 (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)

 意識がはっきりしている時間が増え、大好きなチャーハンやコーラを口にできるほどにまで回復した。この変化には家族も驚くほどだった。

 当日はハレの看護師らが歯朶山さんに付き添い、体調管理にも目を配っていたが、周りの心配をよそに容体は安定。痛み止めも酸素ボンベも使うことはなかった。挙式の間も体調を崩すことなく、ウェディングドレス姿の美佳さんを、ときに目に涙を浮かべながら、誇らしげに見つめていた。

 念願のバージンロードを父と歩いた美佳さんは、「今日、こうして父が来られただけでも本当に感謝です……」と声を詰まらせた。

 挙式後、前田さんが病室に挙式の家族写真を届けた。ベッドサイドに飾られているみどりさんの遺影の横に、美佳さんの結婚式の写真が加わった。

 前田さんがハレを立ち上げ、終末期患者のサポート事業を始めたのは2018年。きっかけは末期がんの義母に、ウェディングフォトをプレゼントしたことだった。

「写真館でメイクをし、ウィッグをかぶってドレスに着替えた義母は、とてもうれしそうでした。このときに、終末期であっても患者さんにはやりたいことがあるはず、これまで培った救急看護や訪問看護などの経験を生かせば、こうした患者さんの希望をかなえるお手伝いができるのではないかと考えたのです」

 現行の訪問看護でできる(健康保険が使える)サービスは、「療養を手助けする」という目的に限られ、また訪問も「自宅に1時間半まで」という縛りがある。かなえるナースでは、これを自由診療にすることで縛りをなくした。

 旅行や帰省の付き添いなどもできるため、「死ぬ前に一度、両親に会っておきたい」「仲たがいした親との関係を修復したい」といった若い患者からの依頼も多い。30年以上疎遠になっていた両親に会いに、沖縄まで行ったがん患者に付き添ったこともある。この患者は家族と和解した2日後に亡くなったという。

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