ほかにも、おいしいそばを食べたいという患者には都内から長野県まで車を走らせ、温泉に入りたいという患者には浴槽から脱衣場まで酸素ボンベのチューブを伸ばすなどして対応した。もう少し手軽なことであれば、お墓参りや花見、ペットと過ごしたいから自宅に一時的に帰りたいという依頼などもある。

「サービスの使い方は自由です。終末期の患者さんが中心となりますが、看護師がいればかなえられることを無制限にサポートします」(同)

 かなえるナースの料金は時間あたりで、別途、出張費や交通費などがかかる。結婚式であればウェディングドレスやヘアメイク、ブーケ、車いすの手配などはサービスの中に含まれる。

 冒頭の上野さんの結婚式にも関わった、終末期の患者や介助が必要な人のサービスに詳しい医師の伊藤玲哉さん(トラベルドクター代表取締役CEO)は、「海外も含め、こうしたサービスは基本的にはNPOなどが寄付を募り、ボランティアのようなかたちで実施しているケースがほとんどです」と話す。

 有名なのは「メイク・ア・ウィッシュ」で、日本にも法人がある。これは難病などの子どもの願いをかなえるものだ。

「終末期の患者さんへのサポートに関しては、例えば、オランダやドイツ、北欧では介護タクシーが旅行の移動をサポートして支援していますが、規模はあまり大きくなく、車で移動できる範囲に目的地も限定されているようです」(伊藤さん)

 日本でも訪問看護のサービスの枠組みの中でされていたり、一般企業のCSR事業の一環として取り組みが始まったりしている。ただ、伊藤さんによると「入れ替わりが激しい」とのこと。

 終末期の患者の旅行をかなえるには、準備にかかる人的・時間的コストや大きな責任が伴い、これらを限られた時間内で実施しなければならない。「情熱だけでは続けていけない事業」(同)という。

 では、かなえるナースに関わる看護師はどう思っているのだろうか。2年ほど前にハレの社員となり、今回、歯朶山さんに付き添った看護師の小渕智絵さん(34)は、このサービスに関わる理由を、「自分がやりたい看護がこれだったから」と明るく答える。

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