「いろんな人がいるのはもうしょうがないことですよね。自分もこういう体になってみないとわからないことがたくさんあった。さまざまなことを体験しましたから。特に子どもは素直なので車いすの僕を見て『気持ち悪い』『お化けみたい』などと言われることもある。それはある意味、当たり前の反応なんです。自分自身がどうあるのか、どう対応するかが大事。相手に対して引いてしまわないで、こちらが歩み寄れる姿勢を持つことで、何かが違ってくると思う」

 絵本のクライマックスで、苦しみながらボッチャは重要なことに気づく。

「ぼくは……ぼくだ」

 それがすべてだと滝川さんは言う。

「まずは自分自身が自分を受け入れること。それがすべてのスタートだと思っています。どんな人にもコンプレックスや悩みはあるし、自分を受け入れることは誰にとっても難しい。でもそうすることで、他者や社会に対して、歩み寄れる自分ができていくと思うんです」

 そしてこう続けた。

「これまでは自分の不注意でケガをして障がい者になって、それがフィーチャーされただけ。ドキュメンタリー番組を作ってもらったり、エッセーを出版したりもしましたが、自分の努力で世に出たものではない。自分としては何も誇れるものがなかったんです。『滝川さんに勇気をもらっています』と言われても『いやいや、オレ何をしたわけでもないし』とずっと違和感がありました。だから自分ががんばった、誇れる、と思えるものを作りたかった。それが今回、形になったなと思います」

 その結晶は、きっと誰かの希望になる。(フリーランス記者・中村千晶)

週刊朝日  2021年9月17日号