滝川英治(たきがわ・えいじ)/1979年、大阪府出身。「リポビタンD」のCMでデビューしドラマや映画で活躍。2017年に事故で脊髄損傷を負い車いす生活となったが、リハビリに励みテレビ番組のMCとして復帰。現在も「Smile again!~人生宝箱~」(BSスカパー!)でMCを務める。滝川クリステルさんはいとこ。
滝川英治(たきがわ・えいじ)/1979年、大阪府出身。「リポビタンD」のCMでデビューしドラマや映画で活躍。2017年に事故で脊髄損傷を負い車いす生活となったが、リハビリに励みテレビ番組のMCとして復帰。現在も「Smile again!~人生宝箱~」(BSスカパー!)でMCを務める。滝川クリステルさんはいとこ。
口で絵を描いた絵本デビュー作『ボッチャの大きなりんごの木』(朝日新聞出版)
口で絵を描いた絵本デビュー作『ボッチャの大きなりんごの木』(朝日新聞出版)

 東京パラリンピックの開会式。ブルーの衣装に身を包み、スポットライトを浴びながら、力強く始まりのホイッスルを吹いた車いすの青年に気がつかれただろうか。俳優・滝川英治さん(42)。ドラマ撮影中の事故で脊髄損傷を負うもリハビリを重ねてテレビ番組のMCとして仕事に復帰。このたび、口で絵を描いた初の絵本『ボッチャの大きなりんごの木』を出版した。

【写真】口で絵を描いた絵本デビュー作『ボッチャの大きなりんごの木』

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 主人公はゾウのボッチャ。自転車が大好きなボッチャはロードバイクの大会に出場する。だが、スピードを上げてコーナーを曲がりかけたそのとき──。

「“絵本を描く”という言葉を口に出したのはケガをして目覚めて、1時間後くらいなんです」

 と、滝川さんは言う。2017年、ドラマ撮影中に自転車で転倒し地面に激突。一命は取り留めたものの脊髄損傷と診断され、首から下がまったく動かせなくなった。

「ICUで目覚めて意識が朦朧(もうろう)とするなかで、まず目に飛び込んできたのが家族やスタッフの姿でした。そして母の涙を見た瞬間に『僕がしっかりしないと』という気持ちに切り替わった。その場を明るくするために『この先、こんなことができるかも』と漠然と口にしたなかに絵本があったんです」

 それまで特に絵を描いた経験はない。創作の始まりは空想だった。

「入院中は起き上がることもできず24時間、天井を見つめる生活。ヒマだし悪いことばっかり考えてしまって、夜中に一人になったときなどは本当にキツかった。そんなある日、天井にあったシミがダルメシアンの模様に見えたんです。もともと動物が好きだったので、空想で犬の冒険劇のようなものを考え始めた」

 4カ月ほどして口にペンをくわえ、携帯にストーリーをメモできるようになった。同じようにして絵も描き始めた。「明日はこんな話や絵を描いてみようかな」との思いが、絶望の淵から自分を這い上がらせてくれたという。

 絵本にはそんな滝川さんの心の動きが克明に投影されている。病院で目覚めたボッチャ。でも大きな手も大きな足も動かない。何もかもが、なくなった……。

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