(4)絵画 絵画はタイミングのいい時間を見つけてはスケッチをする。絵が好きだったぼくはデイケアの美術療法プログラムは得意で、毎回プログラムに集中できた。ぼくはMCIと診断されたことを誰よりも先にスケッチに何度も同行した画家の安野光雅さんに報告した。集中力を養うために行っている美術療法をめぐりスケッチが本当に有効なのかと安野さんに聞いたことがある。

「凝視という言葉があるでしょう。じーっと対象物の花を集中して見続けると、他のものが見えなくなる。例えばこの店のメニューのアラカルトという文字の『ル』を集中して5分間凝視してごらん。『ル』が浮き上がって他の文字が見えなくなる。絵を描くのには集中力が必要になってくる」

 なるほど。集中力の高まりが作品を描くたびに感じられた。どんどんうまくなっているような錯覚にも陥って、あるとき、

「ぼくの作品です。進歩したでしょう」

 と不遜にも安野さんに数点見せたことがある。すると、安野さんは直接の評はさけて、

「知り合いに有名なテレビ記者がいてね。絵を描くのが好きで誰にでも作品を見せたがる。人を集めて画廊で展覧会までした。あまりうまくもないのに」

 やんわりと自宅で楽しみなさいとアドバイスされたのだろう。それでもぼくはデイケアで教わったことを進化させて、紙粘土を使ったアートフラワーや人形を作ったり会った人の似顔絵など描いたりして、ささやかにアピールしてもいる。

 作品をデイケア仲間や隣人にあげると、お世辞でも喜んでもらえることが張り合いになって、また脳を刺激するみたいなのだ。カバンには絵の具や筆、4Bの鉛筆(最近は紙粘土も)を常備、喫茶店で絵を描くことも。

(5)昼寝 不眠症に悩んで睡眠導入剤を服用していたがやめた。時々、昼寝。30分ほどウトウトするとスッキリ。それ以上は夜眠れなくなるので注意。

(6)歯磨き 歯磨きセットを携帯、人と会う前には必ず磨く。1日5、6回は磨いているはずだ。一定時間磨かないと気持ちが悪い。

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