1990年に来日し横浜中華街で働いた後、2018年に同店に移った鄒順儒(スウジュンジュ)シェフが語る。
「日本人にも本物のおいしい点心を食べてほしいと来日しました。香港でも日本でも同じ。手を抜かず、毎日まじめに作ればいい。石ちゃん(石塚さん)の全身から、本当に料理が好きな雰囲気が出ていたのをよく覚えている。食べているときの幸せな顔が最高で、こちらも幸せな気持ちになれる人です」
石塚さんは先ごろ、YouTubeチャンネル「石ちゃんねる」を開設。これまで出会ったおいしい料理や素晴らしい作り手を紹介し始めた。
「飲食店はもちろん、店に卸している肉屋さん、魚屋さん、農家の方々にも恩返しをしたいです。ニュースで、農家さんが発注がなくなったために畑で野菜を廃棄している姿を見て、なんとかならないかと思いました。僕のYouTubeでは、見た目は定番だけどご主人がこだわっている料理などを紹介して、店を知ってもらうきっかけになればと思っています」
石塚さんの食レポの根底にあるのは、人との触れ合いだ。ナポリタンの聖地、横浜「センターグリル」のマスターとシェフとの親交も深い。
「何が好きかって、シェフが太っているんですよ(笑)。その体を生かして、まるで中華鍋に柄がついてるようなでかいフライパンで、ナポリタンを一気に6人前作っちゃう。アルデンテというのがおいしいパスタの代名詞みたいだけど、ここのはナイデンテ。モチモチッとした食感の麺がいい。マスターは、初対面の人をも安心させる雰囲気があって、まるで親戚のおじちゃんに会ったみたいですね」
ベテランのシェフや店主との触れ合いだけではない。若い作り手からも刺激を受けている。
「カレー店の『旧ヤム邸シモキタ荘』のシェフは、本当にスパイスのことを研究しています。この間いただいたカレーには、15種類ものスパイスを合わせていると言ってました。普通なら15ものスパイス、名前も覚えきれないでしょう。イクラ丼専門店『自由が丘 波の』のご主人は、産地や時期にも詳しく大学で講義してもいいくらいの知識の持ち主です」
石塚さんが、応援したい店を厳選して紹介してくれた。再び作り手たちと笑顔で触れ合うときが来るのを願いつつ、今はテイクアウトや取り寄せも利用して彼らの腕を味わいたい。(本誌・菊地武顕)
※週刊朝日 2021年7月9日号