死亡リスクが増えるのはなぜか。クリプキ教授らの別の研究では、ゾルピデムなどの睡眠薬とプラセボ(偽薬)を比較したランダム化比較試験を総合解析。その結果、うつ病は2倍、感染症は44%、がんは35%増えていた。浜医師がこう解説する。

「睡眠剤を常用すると、GABA受容体が刺激され続けるため、身体が自分で受容体の数を減らす。この現象をダウンレギュレーションといいます。その結果、自前のGABAでも、服用した睡眠剤でもストレスによる興奮が鎮められず、うつ病やパニック障害に陥っていくと考えられます」

 感染症やがんが増えるのは、睡眠剤の免疫抑制作用の影響が考えられるという。高齢者の場合は転倒しやすくなり骨折も増える。さらに、認知症との関連も指摘されている。浜医師が言う。

「感染症にかかりやすいのは、免疫が低下していて体内の傷を治しきれないからです。脳の中でも傷が治りきらず炎症がくり返し起き、特に記憶に関わる『海馬』という部位にある認知に関係する神経細胞にもダメージを与えると考えられる」

 眠れない日があるからといって、あまり恐れることはない。先のクリプキ教授の大規模調査では、まったく不眠を感じない人より、不眠を覚える人のほうが長生きという結果に。月に1回不眠を覚える人が最も長生きだった。

「時々寝つけず不眠を感じるのは、実はその人にとって必要な睡眠時間を取れていると考えられる。逆に、すぐに寝つける人は、実は睡眠不足が蓄積しているからでしょう。ただし、多くの人は8.5時間程度必要ですので、睡眠時間を減らすのはよくないです」(浜医師)

 すでに睡眠薬を長期間服用している人でも、状態によって減薬・断薬を考えてみてもいいだろう。ただし、離脱症状が出やすいので自己判断で急に中断するのは危険だ。必ず医師と相談しながら、離脱スケジュールを立てる必要がある。浜医師が助言する。

「短時間作用型の睡眠剤を飲んでいる人は長時間作用型に切り替えたうえで、1、2週間の間隔で服用量を5~10%ずつゆっくり減量していくのが離脱成功のコツです」

 長いトンネルを抜けた先には、快眠と爽快な目覚めが待っている。(本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2021年6月18日号