「去年も花見自粛だったけど、野球場の近くの階段でこっそり花見しました。でも今年はそこも立ち入り禁止。やっと見つけたのがここ。俺、飲食店だから、コロナになると店に迷惑かけちゃうので、こいつらにもマスク宴会してもらってる」という。禁を破って花見はしても、真面目な一面を見せる。

「酒飲んで騒ぐのが目的じゃなくて、毎年の3人花見会が継続できればそれでいい。特にこの1年は、なかなか会えなかったし。大目に見てください」と別の一人が言う。

 結局この日、上野で発見できた花見酒客はこの3組だけ。テレビのニュースで批判されていたような花見宴会客はどこにもいなかった。

 翌31日は外濠公園に行ってみた。市ケ谷から飯田橋の土手沿いを歩いたが、歩き花見客はいても酒を飲んでいる人はいない。唯一、シートを敷いて寝そべっていた中年男性2人に声をかけた。

「花見というか、暇つぶしだよ」という2人は、失業中。勤務先の飲食店がコロナでつぶれたので、ハローワークに寄った帰りにここに来たという。

「コンビニで酒買って飲もうと思って来たら、誰も飲んでないのよ。諦めたよ。どうせカネもないしね、ハハハ」

 仕事ばかりか、花見までコロナに奪われて、笑い声も力がない。

 郊外を狙って中野区の桜の名所・新井薬師公園まで足を延ばすと、すでに葉桜状態。花見客はいない。それなら近くの哲学堂公園へ。やはり桜は少ない。歩き花見客ばかりの中、たった1組、若いカップルがシートを敷いてお茶を飲んでいる。さっそく突撃。

 女性は美容師で男性はその彼氏で学生。「今日は私が休みなのでお花見デートに来た」と彼女は言う。2人の出会いは彼女の勤める美容室に彼が客として行ったこと。付き合い始めて1年ちょっとで「交際期間のほとんどがコロナで外出自粛なの。互いの部屋で会ってばかりで、Go Toで熱海に1泊したのが唯一のデートらしいデート」と彼女。来年彼氏が卒業し、就職したら結婚する予定だ。お邪魔しました。

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