日本年金機構によれば、繰り上げ請求者に対しては昨年から、より丁寧な説明をしているという。減額された年金は生涯にわたって減額されたままであることや、繰り上げしなかった人に累計額で逆転される時期を示すなどして、「了解した」旨の署名ももらうことにしているそうだ。

■繰り下げ拡大 75歳まで可能に

 年金の改正ではこのほか、遅く受け取る「繰り下げ」制度の拡大もあった。これまで「70歳」までだったのが「75歳」まで可能になる。

 こちらは繰り上げと逆で、受け取るのが遅い分年金額が増える。増額率は1カ月につき0.7%。65歳からもらうのを75歳まで10年間繰り下げると、年金額は実に84%まで増える。

 繰り上げと同じ理屈で、こちらは来年4月1日時点で70歳未満の人、生年月日では「1952(昭和27)年4月2日以降生まれ」が対象者になる。一度でも年金を受給してしまうと繰り下げはできなくなるから、60代後半の人には「繰り下げ待機中であること」の条件も加わる。

 ただし、75歳までの繰り下げは、高齢者たちには“自分事”とは映っていないようだ。先の三宅氏が言う。

「年金相談に来る人に『繰り下げが75歳までできるようになりますよ』と情報提供をするのですが、反応は鈍い。『そこまでは考えていない』『それは無理』という人がほとんどです」

 以上、年金改正の主要施策と対象者の関係を見てきた。これからも5年に1回、年金制度の改革は続く。改正や新たな制度は全員が対象者になるとは限らず、生年月日で該当するかどうかが決まる場合があることを忘れないようにしたい。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2021年3月26日号

著者プロフィールを見る
首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

首藤由之の記事一覧はこちら