またiPS細胞は、移植による再生医療のほか、難病の治療薬を探す研究や創薬の研究、病気のモデルの作製でも期待される。例えば岡野医師は、神経からの命令を筋肉に伝える運動神経細胞が死滅してしまうALS(筋萎縮性側索硬化症)の候補薬の研究も進めている。

「ALSはこれまで適切な病態モデルがなく研究がむずかしかったのですが、iPS細胞を使って症状を見事に再現できる手法を開発できました。再現できれば、何らかの病気を起こす遺伝子の異常を見つけやすくなります。最適な候補薬として同定したのはロピニロール塩酸塩といい、脊髄まで到達し、神経が広範囲に変性している状態の改善が期待できる飲み薬です。完全に治せるわけではないのですが、悪化速度を遅くできると期待しています」(岡野医師)

 18年12月から20人に治験が実施され、今後患者への適用が期待されている。さらに岡野医師らは、難度が高いアルツハイマー病を標的にした研究も進めている。(小久保よしの)

週刊朝日  2021年2月26日号より抜粋