現在、あらゆる組織や病気において、iPS細胞を使った再生医療の研究が進められている。これらが成功したあかつきには、現在、治療法がない難病などに対して再生した細胞を移植することで治療し、患者を救うことができると期待される。

 例えばパーキンソン病は、薬物療法やデバイス補助療法、リハビリテーションなどが一般的な治療法で、症状の改善は期待できるが根本的に治すことはできない。また関節軟骨損傷は、関節内注射や装具などの保存療法、手術療法などが一般的な治療法だ。保存療法は根本的に治すものではなく、手術は大きな損傷に対応できず、痛みが再発する場合もある。ほかにPRP(多血小板血漿)療法やAPS療法という再生医療はあるが、痛みを抑制できる期間は限られ、根治を目指すものではない。こうした病気に対して、神経細胞や関節軟骨そのものを再生させることで根治を目指すのが、iPS細胞を使った再生医療だ。

 実用化されたものはまだないが、臨床研究として患者に実際に移植されたケースは多く、「ここまで進んでいるのか」と実感できる。

「iPS細胞の再生医療の臨床研究は世界中で実施されていますが、その半分以上が日本でおこなわれています。これだけ実績が出ているので、決して進んでいないわけではないのです」

 そう話すのは、日本再生医療学会の副理事長であり、iPS細胞を使った再生医療研究を進める慶応義塾大学教授の岡野栄之医師。岡野医師が自ら進めている脊髄損傷の臨床研究は、19年2月に厚生労働省に承認された後、準備を進め、まもなく移植ができる段階にまでなった。損傷後2~4週間の亜急性期の完全麻痺の患者を対象にしている。本来は20年12月から移植の治験対象者を募集する予定だったが、新型コロナウイルスによる同病院の医療体制の影響から延期されている。

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