クリスマスケーキなどに飾ってある真っ赤な苺を想像した読者は、この一句を「ワクチンはみんな舶来だよ、あの美味(おい)しそうな冬の苺みたいに、きっと良く効くワクチンに違いないよ」と解釈したかもしれない。

 が、季語「冬苺」は、バラ科の蔓性(つるせい)小低木。粒々が集まったような小さな苺だ。木苺の類なので食べられはするが、温室育ちの立派な苺みたいに甘いわけではない。

「冬苺」の正体が分かると、この句の解釈が少し変わってくるはず。冬の野山の灯(あか)りのような冬苺に、ワクチンの希望を重ねているとも読めるし、冬苺は酸っぱかったり、小さな小さな棘(とげ)が舌先に引っかかったりもするから、ワクチンもそんなに甘いもんじゃない、という意味にも取れる。

 取り合わせという技法は、組み合わせた季語との関係によって解釈鑑賞が様々に展開していく。ホホホにも、トホホにも読めたりする。そこが面白いところなのだ。

★コロナ禍の八月沈黙の給食(坂野ひでこ)

 マスクしての会食なんてお達しに、そんな馬鹿な! と大人たちは声を上げたが、子どもたちは従順だ。話をせず静かに給食を食べるのだ。

 なぜ季語が「八月」? と思ったが、四月五月と続いた休校の余波で夏休みも短かった。学校はマスクの熱気と沈黙に包まれていたのだ。まさにトホホな八月だった。

 コロナ禍における大人たちのトホホは山ほどあった。「巣ごもって増えたビールとストレス感」とぼやく羽馬愚朗さん。巣ごもり需要という名のビールの売り上げで社会貢献したね。「久々の喪服のキツさ年の暮」林恵美さんの悲哀。滅多に着ない喪服だからこそ、体型を測るスケールとして機能するのだ、トホホ。「初夢に減量かなった我が姿」佐藤香珠さんは、夢を見てホホホ、覚めてトホホ。ダイエット関連の句材を17音に切り取り、季語をちゃんと主役に立てるのは難しい。

★ダイエット本に乗せたるおでん鍋(藤田ゆきまち)

 ダイエットしようと本を買ってきた時は、ホホホだったのだ。しかし、あっという間に諦めのトホホ。今となってはちょうど良い鍋敷きとして第二の人生を送るダイエット本。そして美味しいおでんを食べてホホホ。

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