夏井いつき(なつい・いつき)/1957年、愛媛県生まれ。俳句集団「いつき組」組長として五七五の世界の尽きせぬ魅力を伝えている。テレビ番組「プレバト!!」(TBS系)で芸能人の俳句を歯切れ良く解説する〝毒舌〟ぶりで人気を集める。著書に『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業』(PHP研究所)など。
夏井いつき(なつい・いつき)/1957年、愛媛県生まれ。俳句集団「いつき組」組長として五七五の世界の尽きせぬ魅力を伝えている。テレビ番組「プレバト!!」(TBS系)で芸能人の俳句を歯切れ良く解説する〝毒舌〟ぶりで人気を集める。著書に『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業』(PHP研究所)など。
夏井いつきさん
夏井いつきさん

 芸能人の俳句を歯切れ良く解説する“毒舌”ぶりが話題の俳人・夏井いつきさん。「去年のトホホ」「今年のホホホ」をテーマに俳句を募集すると、コロナ禍にまつわる句が目立った。秀作(★)や夏井さんの目にとまった句を評してもらった。

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 生きていれば、ホホホと嬉(うれ)しいこともあるし、トホホと情けないこともある。暮らしの悲喜交々(こもごも)を17音で呟くのが俳句という庶民の文芸だ。

 とはいえ「ゼロ三つ 減っていくだけ 我が通帳」と嘆く鈴の音さん、「左肩 腱板断裂 何故? 老化」と痛々しい森隆政さん。どうかお大事にとお見舞い申し上げるしかないが、俳句には季語ってのを一つ入れてくれると有難(ありがた)いのだな。それと俳句の表記は五七五の間を空けないのが基本ルール。これを機会に覚えて欲しい。

 おー季語ぐらい入れてやろうじゃないか! と「数え日や今年最後の運試し」柳村光寛さん。確かに「数え日」は季語。柳村さんの運試しが何だったのかは分からないが、思いもよらないコロナ禍に苛(さいな)まれた2020年。世界全体が運試しの坩堝(るつぼ)に放り込まれたかのような一年であった。

「咳の音に一も二もなく遠ざかり」抹茶實さんのおっしゃる通り、迂闊(うかつ)に咳もしにくい日々。五人以上の会食は控えろといわれると、忘年会新年会も憚(はばか)られる。

「コロナ禍や出番まだなき鍋奉行」と嘆く渡部米助さん。いつになれば奉行としての腕前を発揮できるのか。

「7度5分ドック会場更に冷ゆ」山羊(やぎ)座の千賀子さんは人間ドックか。拳銃みたいな体温計を額に当てられる度に、心もヒヤリとする。ワクチンの完成が待たれる春だが、我が身に届くのはいつのことやらと思うと、心も萎(な)える。

★ワクチンは皆舶来よ冬苺(高原としなり)

「取り合わせ」の基本形を使った一句。「ワクチンは皆舶来よ」という十二音のフレーズに、五音の季語「冬苺(ふゆいちご)」を合体させる技法だ。

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