林:なるほど。

安藤:この病は、未知なものに対してどれぐらい謙虚でいられるかということを、メディアが試されたと思うんです。コロナに感染すると「悪だ」という風潮だったじゃないですか。他局のキャスターが感染してしまって、すごくたたかれて、復帰するときも、経緯をかなり説明しなくちゃいけなくて、私、あれは魔女裁判だと思いました。知らない、わからないってことが、人の心理をこんなふうにさせるんだとつくづく思いましたね。

林:本当にそうですね。しかしテレビの影響力ってすごくて、安藤さんが言ったことが、すぐネットニュースになったりしますよね。

安藤:どうでもいいような、「えっ?」と思うようなことがね。意見を言う「場」ができたという意味では、SNS上での議論はよかったなと思います。ただ何かが気に食わないとすぐ怒りとなって、中傷的なことを不特定多数が見るネット上で言って、それによって命を落としたりすることが、日本だけでなく海外でも起きてるわけですよね。「死ね!」とか「クズ!」とかいう言葉を、まったく面識のない他者に向けるってどういう神経なのか、私にはまったく理解ができないです。林さんみたいに言葉を大事にされている方にとっては、たまらない現象だと思う。

林:たまらないですよ。あれで世の中が悪くなっていると思います。週刊誌のエッセーで書いたことが、なんでこんなに騒がれるのかわからない。担当の編集者は「単行本にするときに直しましょう」って言うけど、私、「直さなくていい」って言うんです。顔の見えない人から批判されたことで、主張を下ろすのって違うと思う。私は無視するしかないと思っています。

安藤:そういう応酬って、ある意味でブーメランでもあるんですよね。というのは、私たちテレビのニュースって、専門家の方とかに「いかがでしょうか」ってコメントを求めたときに、どうしても編集の筋に沿った話にしがちで、前後を切っちゃったりするわけですよね。そういうことをやってきた積み重ねのブーメラン現象なのかなと思います。ただ、ニュース原稿の中に「インターネット上ではこう言われています」って書くのは、どうなんだろうと思う。

林:「ネット上では批判の声が上がっています」とかね。「だから何なの?」って思う。

次のページ