後期は哲学的で、内面的でもあり、深みのある音楽だとされている。

「ベートーベンは本来、社交的な人だが、耳がよく聞こえなくなり、孤独感や孤立感を強めて、内面的な音楽をつくるようになった」と音楽評論家の林田直樹さんは指摘する。彼の音楽は「慰めの要素がすごく強く、本質は“優しさ”にある」と説く。常に散歩をして自然を愛し、「自然との結びつきが強い」とも。

 そんなベートーベン好きが多い日本で、どんなCDが売れたのか。

 通信販売サイト「楽天市場」で今年1~9月のベートーベンのCD販売ランキングを見ると、上位はピアノ・ソナタ(第1~32番)が目立つ。とくに第8番「悲愴」、第14番「月光」、第23番「熱情」は「3大ピアノ・ソナタ」と呼ばれる。

 CD販売ランキングの1位は、ピアノ・ソナタ第17番、第24番、第32番で福間洸太朗の演奏。フィギュアスケートのステファン・ランビエル(スイス)やバレエのマチュー・ガニオ(フランス)などとの共演がある実力派のピアニストだ。「ファンを大切にしていて、人間的な魅力をうまくアピールできたのでは」(林田さん)と、演奏家の人気もあった。

 2位は3大ピアノ・ソナタで辻井伸行の演奏。「ファンの数で他の演奏家を圧倒し、最近はベートーベンをよく弾き、オーソドックスな演奏スタイル」(飯尾さん)が支持を集める。全盲の辻井は「月光」の練習にあたり、いろいろな演奏を聴いて月の光をイメージしながら、自分なりの演奏を生み出したと伊さん。「彼はすごく努力家ですが、ステージでは努力の痕跡を出さず、楽しく弾いてくれます」

■ピアノ・ソナタや巨匠指揮が人気

 3位は交響曲全集で、アンドリス・ネルソンスとウィーン・フィルの演奏。ネルソンスは「現代を代表するナンバーワンの指揮者といっていい」と飯尾さんは評する。世界一流の交響楽団とのコラボで上位入りした。

 4、5位もピアノ・ソナタで、いずれもマウリツィオ・ポリーニの演奏。「戦後の音楽界に象徴として君臨し続けた」(林田さん)現代最高峰のピアニストが奏でる。「年を重ねて円熟味を増し、テンポが遅くなって情感豊かな演奏に変わった」(伊熊さん)という点も味わいたい。

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