5位のピアノ・ソナタ第30~32番は、ベートーベン後期のみの作品となった。飯尾さんによれば、3大ソナタ好きの人が、最後に行き着く作品だという。

 6位は“ジャジャジャジャーン”のフレーズでおなじみの「運命」で、テオドール・クルレンツィス指揮、ムジカエテルナ管弦楽団の演奏。クルレンツィスは「クラシック音楽界を背負う奇才」(飯尾さん)。ムジカエテルナはチェロ奏者以外が立ったまま演奏し、「生き生きとした集合体」(林田さん)だと評される。

 ランク上位に入らなかったものの、10~20位は往年の名指揮者による交響曲全集が多い。ブルーノ・ワルターやヘルベルト・フォン・カラヤンといった巨匠たち。高価だった当時のLPレコードに比べ、CD全集は価格面で「お得感があり、昔のファンが手を伸ばしてしまう」(同)。

 本来ならば、ベートーベンゆかりのウィーンやボンを巡る旅行を考えていた人もいただろう。新型コロナの終息が見えないなか、波瀾万丈の人生を歩んだ彼の音楽にじっくりと向き合えるいい機会になったのかもしれない。

「小銭をなくした記憶や愚かな間違いまでもすべて音楽にし、ユーモアがあって人間臭い作品をつくった」(同)。苦悩や孤独、そのなかにあって優しさや笑いも大事にしていたベートーベン。

 彼の音楽で癒やされながら、暮れゆく今年を振り返ってみてはどうだろう。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2020年12月11日号