「ある時期から」というのは、最初に映画のオーディションに受かった5年前のこと。それまでは、オーディションにもなかなか受からず、悔しい思いもした。

「最初の合格が奇跡の第一歩で、以来、オーディションに受かるたびに、嬉しくてというより、ビックリして泣いていました(笑)。全力で取り組んでいると、一つの仕事をやり遂げるたびに強くなっている自分がいるんですが、でも、それは私の成長であって、自己満足にしかならないですよね。だから、今はもっともっと、いいお芝居をするための力をつけていきたいと思っています」

 向上心と好奇心。それらは、暗い世の中を明るく乗り切っていくための最大の武器かもしれない。その二つを保つために普段から心がけていることを聞くと、「うーん」と少し考えてからこう答えた。

「『自分本位になりすぎない』ってことでしょうか。『自分がよければいい』という発想だと、周りが見えなくなる。もちろん、周りにばかり目を向けたら、自分のことが疎かになるかもしれない。でも、自分と関わる人──家族や友達、お仕事でご一緒する人など自分と関わる人との時間を、本当に大事にしていきたい。それは、自分自身を守ったり磨いたりすることよりも大事なんじゃないかって思うんです」

「人との関わり合いの中でしか、物語は生まれないし、人との関わり合いの中にしか、喜びや悲しみは生まれない」と吉岡さん。「人と人が感情を共有できた瞬間が、私は、生きていて一番幸福な瞬間だと思うんです」と言う。

「自分一人では何もできない。一人では何も成立しない。私はだから、自分はいろんな人との関わり合いの中の一部なんだという感覚を、常に持っていたいです。台本をいただいたときも、まず考えるのは、自分がどう表現するかよりも、どう全体の中の一部になっていけるのかです。近くにいる人と、いろんな感情を共有したい。その感覚は、これからも失いたくないと思います」

(菊地陽子 構成/長沢明)

吉岡里帆(よしおか・りほ)/1993年生まれ。京都府出身。主な出演ドラマに、「あさが来た」(2015年)、「ゆとりですがなにか」(16年)、「カルテット」(17年)、「きみが心に棲みついた」(18年)、「時効警察はじめました」(19年)など。映画では、「パラレルワールド・ラブストーリー」「見えない目撃者」(共に19年)、「Fukushima50」(20年)など。「ゾッキ」は21年春公開予定。

週刊朝日  2020年11月27日号より抜粋