林:おー、それって村上春樹方式じゃないですか。村上春樹先生は、突然出版社の人に「これあげるよ」「何ですか、これは」「書き下ろしだよ」ってデータをポンと渡すみたいよ(笑)。

古市:そんな立派なものではないですけど。次は戦争のことを書こうと思ってます。コロナのときの自粛警察や、お互いの空気を読み合う感覚というのは、戦争の時代に近いんじゃないかなと思ったんです。国家は想像以上に抑制的で、マスコミや世論が大騒ぎして、国家の強権発動を求めるという図式も今とよく似ている。この空気を感じた今だから、ちょっとはリアリティーを持って戦争のことが書けるかなと思って書き始めています。

林:古市青年が感じる第2次世界大戦ですよね。

古市:コロナで、現代があの時代と地続きだと再確認できました。

林:素晴らしいです。このコロナのときに戦争というものの匂いを嗅いで、戦争の小説を書くなんてすごいなと思う。あっと言わせるものを書いてくれるんじゃないかと思ってすごく楽しみです。

古市:いつかの真理子さんみたいに、文句を言っていた人たちを黙らせるような本を書いてみたいですね。

林:期待してますよ。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)/1985年、東京都生まれ。慶応義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)で注目される。2018年、初の小説単行本『平成くん、さようなら』(文藝春秋)を刊行。翌年の『百の夜は跳ねて』(新潮社)とともに2作連続芥川賞候補作となり話題を呼ぶ。最新作となる小説『アスク・ミー・ホワイ』(マガジンハウス)が8月27日に発売

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

週刊朝日  2020年9月4日号より抜粋