ただ、雇用保険の高年齢雇用継続基本給付金との調整は残る。年金収入の150万円については、国税庁の速算表で計算すると雑所得が「85万円」となって、その分、税金が増えることにもなるので注意したい。それでも、「60歳以降も働いて保険料を納めるので、65歳になると老齢厚生年金はその分増えます。月約7千円増え、65歳以降の年金は月13.2万円になります」(同)。

 厚生年金は70歳まで加入できるので、あと5年働けば、さらに5年分が増額される。同じ給料だと70歳以降の年金は月13.9万円だ。

「政府は長く働いて遅くもらうことを推奨していますが、今回試算したのは長く働きつつ年金は早くもらうという選択をしたケースです」(同)

 晩婚で子どもがまだ小さく、教育費が必要な家庭など、60代前半でキャッシュが必要な家庭で選択肢に入ってくる可能性がある。

 ただし、三宅氏によれば、最初に24%減額されるので、同じ条件で本来の65歳から年金受給を始めた人と比べると81歳で追いつかれ、それより長生きすると累計額で損をする。従来は77歳で追いつかれていたが、減額率の緩和で4年余り延びるものの、それでも80代前半というのは早い感じがする。

 繰り上げをすると、けがなどで障害基礎年金をもらえなくなるといったデメリットもある。

 こうした指摘をふまえると、繰り上げには慎重な対応をするように求める声も多いが、三宅氏は次のように見る。

「人間は以前と比較したがる傾向があります。減額率引き下げと在職老齢年金の基準額の変更で、収入が増えることがわかると、そちらに走る人が出てくる可能性があります。これまで繰り上げは減少傾向でしたが、再び増えるかもしれません」

 ともあれ、今回の改正で年金のもらい方の選択肢が増えたことは間違いない。対象世代がどのような制度の使い方をするかが注目される。

 在職老齢年金の制度改定を受けて、働く側からは60歳代の給料アップを要求する声が出てきそうだ。定年以降の給料は今のところ、現行の在職老齢年金の制度を前提に設計されているからだ。

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