会社はこれまで、社員に対して「年金ができるだけカットされないようにするから、低い賃金で働くことに納得してほしい」という理屈で説明してきた。だが、今の給料どころか、もっと高い給料でも年金はカットされなくなる……。それならば、「50代と比べて、そんなに給料を下げすぎなくても」といった主張が出てきてもおかしくない。

 とはいえ、会社の労務事情に詳しい社会保険労務士の澤木明氏は、理屈どおりにはいきにくそうだとする。

「基本的に会社は給料を上げたくありません。また、会社にとって60歳以降は、『残ってほしい人』とは限らず、『法律で決まっているから雇い続けている』という位置づけの人のほうが多い。同じ20万円の給料なら、新しい技術に対応できない高齢者より、対応できる柔軟で従順な若者のほうがいいに決まっているという事情もあります」

「待遇」が変わらないとすると、再雇用者は不満が高じるだろう。ひょっとしたら、その結果、サボタージュが増えることさえ考えられる。年金改正で60代の賃金に関する議論が、再び活発になるかもしれない。(本誌・首藤由之)

AERA 2020年9月4日号より抜粋

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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