古賀茂明氏
古賀茂明氏
この記事の写真をすべて見る
EV車(Getty Images)
EV車(Getty Images)

 先週の月曜日(8月17日)、日本の実質GDPの落ち込みが前期比年率で27・8%減となり、戦後最大になったというニュースが大きく取り上げられた。今後もV字回復とはいかず、コロナショック前の水準に戻るには数年かかるという見通しも広がっている。

【写真】安倍首相とメルケル首相。両者のビジョンの違いは?

 先行きを見通すのは難しい状況ではあるが、一方で、ポストコロナの新たな経済社会を目指すうえでの指針については、世界の先進的な政府の間での認識は驚くほど一致している。

 一言で言えば、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーンリカバリー、分散革命の3本柱だ。それぞれについての解説はまたの機会に譲るが、今回は、日本がこのうちグリーンリカバリーの流れの中でさらに大きく後れを取るのは必至だと確信したあるニュースを取り上げてみたい。

 それは、8月14日の日本経済新聞朝刊1面の甘利明自民党税調会長のインタビュー記事だ。その中でも私が注目したのは、「エコカー減税」についての同氏のコメントだ。

 甘利氏は、自動車産業の「体力と販売を回復させるのを第一に」として、現行の減税措置を維持すべきだと述べた。この発言の何が問題なのか。

 実は、日本のエコカー減税は、その名称と異なり、燃費が平均より悪くてもほとんどの新車が対象になる自動車産業向けのただのバラマキ政策だ。

 これでは、全く地球温暖化対策にならないと批判され、電気自動車(EV)と水素自動車だけに限定するか、少なくともガソリン車やディーゼル車ははずすべきだという議論がされていたのだが、それを完全否定する方針が党税調会長から示されたということになる。

 一方、世界をリードするEUの自動車大国である独仏2カ国はこれとは対照的な政策を採る。

 フランスのマクロン大統領は、EV(プラグインハイブリッド車を含む)に対する購入補助金を7千ユーロ(約88万円)まで引き上げるとともに、10万カ所の充電インフラ整備目標を2022年から21年に前倒しした。さらに、自動車・同部品メーカーなどの支援により25年までにEVなど電動車の国内生産を年間100万台に増やす目標を掲げる。ドイツのメルケル首相も自動車への支援対象をEVに限定し、購入補助金額を6千ユーロ(約75万円)に倍増する。自動車業界からは、エンジン車(ガソリンおよびディーゼル車)を対象にするよう要望が出ていたが、これを拒否した形だ。また、国内の全ガソリンスタンドに電気自動車用充電器の設置を義務付けることも発表した。フランス同様、航続距離への不安を解消し、EVの普及に弾みをつける狙いだ。

次のページ
何のビジョンも戦略もない政策では?