4月に官邸で安倍首相に会ったとき、「なぜ緊急事態宣言を出すのがこれほど遅れたのか」と問うた。すると安倍首相は、「緊急事態宣言にほとんどの閣僚が反対したのだ」と答えた。
その数カ月前に、どのマスコミも、日本の財政事情は先進国最悪で、10年近くで破綻すると報じていた。安倍首相は、緊急事態宣言をすれば少なくとも100兆円以上の出費が必要で、財政破綻が早まるだけだと危惧したのである。だが、欧州の国々がいわゆる緊急事態措置を取っていることを知り、有事に財政事情をうんぬんしていられないことがわかって、遅ればせながら宣言をしたのだという。
明治以来、感染症対策は都道府県、保健所、地方衛生研究所などの地方が中心になってやることになっていて、しかも感染症データの管理・開示がバラバラで、きわめて不統一なのである。
自民党内の一部では、感染症の危機対応、そして管理を国の責務として位置づけようとしているのだが、これに対しても反対が強いのだという。
また、各国と比べても少ないと指摘されるPCR検査についても、保健所の権限が強すぎるなどの縛りがあって、法改正をしないと拡大できないのだという。
なぜ、国民の安全に関わる改革には反対が多いのだろうか。
※週刊朝日 2020年8月14-21日号
■田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数