「ウイルス学の専門家と勉強会を開いたりしているが、映画館はそもそもローリスクで、手指の消毒を徹底してマスクをすれば、満席でも安全だと言われている」と主張する想田監督は、怖いのはウイルスよりも、「自粛警察」であらわになった私たちの心だと強調する。

「芸術文化というものが、私たちが生きていくうえで必要不可欠なんだというコンセンサスが日本社会は弱いので、その部分を変えていく必要がある。例えば教育や医療はみんなが必要だと思っているから、もうからないなら学校なんてつぶせ、うちの町に病院はいらないという人はいない。でも映画館の場合だとそういう人が出てくる。いや、芸術や文化がないと生きていくことの豊かさや楽しさがなくなってしまう、とみなさんに感じてもらわないと」と意気込む。

 中でも映画文化の多様性を担っているのがミニシアターで、ユーロスペースでは7月4日から「もち」(小松真弓監督)を公開。岩手県一関市を舞台に、地元の人々が自分自身を演じるという極めて個性的な作品で、上映時間は61分と短い。一方で、シアター・イメージフォーラムで8月1日公開のスイス、フランス合作「死霊魂」(ワン・ビン監督)は、8時間26分もの大長編ドキュメンタリーだ。

「死霊魂」は2度の延期を経てようやく公開のめどが立ったが、イメージフォーラムの山下支配人は「配信で流すこともできたが、大きいスクリーンだと画面との対峙度が違う。8時間半はハードルが高いが、だからと言って除外するものではない」と明言する。

 ミニシアターパークを提唱した俳優の井浦は力説する。「大切なものと出会ったり、人生が変わったり、救われたり、そういう力を映画は持っている。それが最大限に機能して最大限に生かされる場が映画館だと思う。映画を見ることは家でもできる。でも生かされて見られるのは映画館で、だから映画館で出会うと特別な映画になるんです」

 ミニシアター存続には、私たちの文化度が試されている。

週刊朝日  2020年7月17日号