「6月から夫の仕事も再開していますが、週3日の勤務。すでに『冬のボーナスは諦めてほしい』と言われています。来年の中学進学などに備えてボーナスはためておこうと思ったんですが、まさかこんなことになるなんて……。第2波が来たらどうなるか、この先も不安で仕方がありません」

 千葉県に住む40代の主婦が嘆く。イベント会社で働く夫は3月以降、ほぼ休業状態となった。小学生2人の子どもを抱えながら、収入は2割減り、夏だけでなく、冬のボーナスまでもが消えそうだという。

 さらにボーナスだけでなく、昇給や昇格が望みにくくなって収入減に追い打ちをかけるおそれも指摘される。

「会社によって決め方が異なりますので一概には言えませんが、これからの労使交渉しだいで、春までにいったん決まっていた年度初めの昇給がなくなったり、昇格が1~2年間後ろ倒しになったりして、昇格の話そのものがなくなってしまうケースが想定されます。昇格が遅れれば、当然、基本給も上がりにくくなる。こういった面でも、企業の人事サイクル上、新型コロナの影響は遅れて出てくると考えておくべきです」(前出の平康さん)

 そもそも今年の春闘は、働く者には厳しい状況だった。ベースとなる賃金が底上げされれば、ボーナスなどにも反映されるためだ。

 経団連が5月にまとめた大手企業の20年春闘の第1回集計によると、回答のあった15業種86社の定期昇給を含む月給の賃上げ率は2.17%で、前の年の第1回集計より0.29ポイント低下した。伸び率は2年続けて鈍化した格好で、政府が賃上げを要請する「官製春闘」が始まった14年以降で最低だった。

 6月12日に発表した中小企業の第1回集計も、金額が判明した201社の月給の賃上げ率は1.72%と、前年同期に比べ0.15ポイント下落している。

 自動車や電機など主要な製造業の労働組合でつくる金属労協によれば、6月22日までに回答のあった2235組合のうち、半分近くで賃上げが「見送り」となった。「米中貿易戦争や消費増税などの影響で20年の春闘はもともと厳しい見通しだったが、妥結の時期が比較的遅い中小企業の組合を中心に、新型コロナがさらに下押しした」(金属労協)。賃上げを見送った割合としては、これまでで最も多いという。

 新型コロナで経済活動が滞った今年度を踏まえる来年の春闘は、働く人にとってさらに厳しい交渉になるとみられる。(本誌・池田正史、吉崎洋夫、浅井秀樹)

週刊朝日  2020年7月10日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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