2017年の九州北部豪雨で、濁流と共に流木が押し寄せた=福岡県朝倉市 (c)朝日新聞社
2017年の九州北部豪雨で、濁流と共に流木が押し寄せた=福岡県朝倉市 (c)朝日新聞社
水害の被災世帯の多い自治体 【東日本】 「被災世帯数」および「被災年数」は国交省「水害統計」から作成。2009年から18年までのデータを集計した。河川の洪水や内水、土石流などによる被害も含む。被災年数は10年間で被災したことのある年の数を表す。「浸水想定世帯割合」は秦康範山梨大准教授がまとめたデータをもとに編集部で作成。自治体の世帯数のうち、浸水被害が想定される世帯数の割合を表す (週刊朝日2020年6月19日号より)【西日本のランキングはこちら】
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水害の被災世帯の多い自治体 【東日本】 「被災世帯数」および「被災年数」は国交省「水害統計」から作成。2009年から18年までのデータを集計した。河川の洪水や内水、土石流などによる被害も含む。被災年数は10年間で被災したことのある年の数を表す。「浸水想定世帯割合」は秦康範山梨大准教授がまとめたデータをもとに編集部で作成。自治体の世帯数のうち、浸水被害が想定される世帯数の割合を表す (週刊朝日2020年6月19日号より)
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水害の被災世帯の多い自治体 【西日本】 「被災世帯数」および「被災年数」は国交省「水害統計」から作成。2009年から18年までのデータを集計した。河川の洪水や内水、土石流などによる被害も含む。被災年数は10年間で被災したことのある年の数を表す。「浸水想定世帯割合」は秦康範山梨大准教授がまとめたデータをもとに編集部で作成。自治体の世帯数のうち、浸水被害が想定される世帯数の割合を表す (週刊朝日2020年6月19日号より)
水害の被災世帯の多い自治体 【西日本】 「被災世帯数」および「被災年数」は国交省「水害統計」から作成。2009年から18年までのデータを集計した。河川の洪水や内水、土石流などによる被害も含む。被災年数は10年間で被災したことのある年の数を表す。「浸水想定世帯割合」は秦康範山梨大准教授がまとめたデータをもとに編集部で作成。自治体の世帯数のうち、浸水被害が想定される世帯数の割合を表す (週刊朝日2020年6月19日号より)

 日本各地で発生する地震だけでなく、今後の水害も懸念されている。2018年の西日本豪雨、19年の台風19号など、ここ数年は大規模な水害が毎年のように起こっている。今月4日には十島村・トカラ列島(鹿児島県)で「50年に一度」と言われる猛烈な雨が降った。

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「今年も豪雨による水害が各地を襲うと警戒したほうがいい」

 地域防災を専門とする山梨大学の秦康範准教授は指摘する。

 一体どこで水害は起こっているのか。編集部では国土交通省の「水害統計」をもとに、09~18年の被災世帯数を集計。被災世帯数の多い自治体をまとめた。その他にも各自治体でこの10年間で被災した年数と、浸水被害が想定される世帯数の割合も表にした。ここから近年の水害について読み解いていこう。

 ランキングで上位に入っている自治体に共通するのは、河川の堤防が決壊した地域であることだ。東日本で最も被災世帯数が多かった常総市(茨城県)では、15年9月に関東・東北地方を襲った記録的な豪雨で鬼怒川が決壊。市の3分の1が浸水し、5千棟以上の家屋が全半壊、床上・床下浸水が3千棟を超えた。

 西日本で最多となった倉敷市(岡山県)の被害は記憶に新しい。18年に九州から中国、近畿にかけて記録的な大雨が降り、河川の氾濫や土砂災害など広く被害をもたらした。倉敷市では小田川や高馬川などで8カ所が決壊。5千棟以上が全半壊した。

 その他にもランキング上位に入っている自治体には、信濃川が流れる長岡市(新潟県)や砂川が流れる岡山市など河川があるところが多い。これらの街の浸水想定世帯割合を見ると、いずれも6割以上と高い。秦准教授はこう話す。

「堤防が整備された結果、かつて人が住んでいなかったような場所に住居ができている。これまでは台風や豪雨が少なかったため被害がなかったが、ひとたび決壊すれば、甚大な被害が出る状況になっている」

 被災年数が1年という久慈市(岩手県)は東日本14位に入っている。東北地方はもともと台風が少ない地域と言われていたが、16年に台風10号が襲い、久慈川が氾濫(はんらん)するなど大きな被害を出した。同21位の茂原市(千葉県)も13年に台風26号の影響で一宮川が氾濫。床上・床下浸水や道路の冠水などの被害が出た。

北海道や東北など台風が来ないと言われていた地域でも台風が上陸するようになっている。『晴れの国おかやま』とうたっている岡山県でも倉敷市などで大きな被害が出た。『どこで起こりやすいか』よりは、『日本のどこにいても災害は起きる可能性がある』という発想を持ったほうがいい」

 大都市でもリスクは大きい。大阪市のベッドタウンである守口市(大阪府)はランキングで西日本2位。12年に短時間に記録的な豪雨が降り、下水の処理能力を上回ることで起こる内水氾濫が起きた。東日本13位に入った北区(東京都)でも豪雨や台風による被害が出ている。

 昨年は過去最大クラスの台風19号が上陸し、都内を流れる荒川が氾濫危険水位に迫った。江戸川区(東京都)の住民に避難勧告が出るなど危機感が高まった事例もある。江戸川区を含め、荒川沿いの江東区、墨田区、葛飾区、足立区は海抜0メートル地帯が多く、堤防が決壊すれば被害は甚大だ。大阪市や名古屋市でも同じように海抜0メートル地帯が多く、同様のリスクがある。

 なぜ、日本各地でこのようなことになっているのか。背景にあるのは気象状況の変化だ。気象庁は13年から「特別警報」の運用を開始。台風や集中豪雨などにより数十年に一度の大雨が予想される場合には、「大雨特別警報」が発表されるが、運用開始から19年11月までに福岡県・長崎県・沖縄県で3回ずつ、宮城県・茨城県・栃木県・京都府・佐賀県が2回ずつ、その他の地域で1回ずつ警報が出ている。

 秦准教授はこう語る。

「雨の降り方が変わってきている。世界的な地球温暖化が進行し、その結果、降るときには大量の雨が降り、降らないときには全然降らない『気象の極端化』と呼ばれる現象が国内各地で確認されている。気象が変わったことを前提に自治体も住民も対策を進めていかないといけない」

(本誌・吉崎洋夫、松岡瑛理)

週刊朝日  2020年6月19日号より抜粋

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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