今年に入ってから5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)に石川さんの実家の電話番号・本名・住所がさらされた。中傷はエスカレートする一方で、法的措置を検討中という。

「今は誹謗中傷ツイートを受けたら、スクリーンショットやURLとともに、逐次記録を残しています。作業は友人に依頼しています。全部自分で向き合おうとすると、精神的に参ってしまう。近くに被害を把握してくれる人がいるなら、謝礼を渡してでもやったほうがいいと思います」

 20年5月、「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグで注目を集めた会社員・笛美さんも、その被害をSNS上で見ていた一人。石川さんが受けているのは「ネット私刑(リンチ)」だと感じ、悪質なユーザーにオンラインで注意をしたこともあった。

 笛美さん自身、検察庁法改正案のツイートで世の注目を集めて以降、「工作員」「スパイ」など誹謗中傷ツイートが送りつけられる回数が増えた。中には、笛美さんの投稿内容を元に、本人像を割り出すプロファイリングをしたり、勤め先を特定しようとしたりするものもあった。

「声を上げるという行為そのものをラベル貼りし、否定したがっているように感じました」

 匿名の誹謗中傷にさらされるのは男性よりも女性のほうが多く、特に世代の若いユーザーほど狙われやすい傾向にあると観察する。

「男女平等が進んだと言われる現在も、女性が意見を述べることに対して、内心いら立っている男性は少なくないのではないかと思います」

 法務省の発表によれば、インターネット上の人権侵害に関する事件数は、17年時点で2217件。5年連続で過去最高を記録している。

 年々被害が深刻になっているにもかかわらず 、国内で誹謗中傷対策が進んでこなかったのはなぜか。インターネット上の誹謗中傷案件を多数手がける最所義一弁護士は、以下のように説明する。

「ネット上で匿名の誹謗中傷を書き込んだ者の責任を追及するためには、投稿者を特定する必要がありますが、任意に投稿者の情報を開示するプロバイダーはほとんどありません。そのため、投稿者の情報を取得するためには、まずは裁判という手段に訴えなければいけません。このことが大きなハードルとなっています」

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真実でないことを立証するハードル