裁判に進んでも、課題は残る。

「例えば、名誉毀損を理由に開示を求めるには、投稿内容が真実でないことを立証しなければなりません。これは、犯罪者に対して無罪を証明しろと言っているようなものです。また、ツイッターをはじめとしたSNSでは投稿時のIPアドレスを保存していないので、名誉毀損表現が認められたとしても、投稿者の特定に至らないケースも多々あります」

 運用上の問題もあるという。

「何をもって『誹謗中傷表現』とみなすのか、一般人と裁判官の感覚にギャップがあります。裁判所では『表現の自由』を重んじており、権利侵害を認定するハードルは極めて高い。IPアドレスの特定に関しては制度改正が進むと考えられますが、裁判所の判断基準が変わるとは考えにくい。被害者がもどかしさを感じる状況は、今後も続くのではないかと思います」

 制度改正は大きな前進となるが、法にすべてを期待するのは難しいようだ。裁判以前にできることはあるだろうか。笛美さんはこう話す。

「誹謗中傷表現について、社会全体で『許さない』という空気を作ることが大切だと思います。例えば日本では、公益社団法人ACジャパンが昔話『桃太郎』を題材に、おばあさんが桃を拾うと『窃盗だろ』『桃の気持ち考えたことがあるのか!』と大量の批判が寄せられている動画を17年に作り、大きな話題になりました。広告はもちろん、一人ひとりの立場から起こせるアクションがあると思っています」(本誌・松岡瑛理)

※週刊朝日オンライン限定記事