だが、そんな動きの蚊帳の外にされた二階幹事長が公明党とタッグを組み、猛烈に巻き返し、「1人当たり10万円給付」を安倍首相にねじ込み、急転直下で認めさせた。

 岸田氏は同17日、「1人当たり10万円」を一律給付に転じた経緯を党会合で説明したが、「公明党から言われて転換したのか」など厳しい声が相次いだ。

 岸田氏の地元は、河井克行前法相夫妻の公職選挙法違反事件で揺れる広島だ。地元ではかねてから岸田氏への次期首相待望論が高い一方、知名度やキャラクターを不安視する声もあった。

「河井夫妻の公職選挙法違反事件で、岸田氏にも近い広島県議、市議らが広島地検から事情を聞かれるなど、地元はひっくり返っている。30万円給付の手柄で地元の空気も変わると思っていたが、ダメになって『やっぱり岸田先生じゃいけんのかのう』というガッカリした声が聞かれる」(自民党の広島県議)

 そんな声を気にしてか、岸田氏は自身のTwitterで30万円給付案がひっくり返されたにもかかわらず、<皆様の暮らしを守るために、自民党としても当初から訴えてきた10万円一律給付を前倒しで実施することを総理が決断しました>とつぶやいているのである。

 前出の広島県議がこう言う。

「ポスト安倍と言われながら、それだけの器があるのかと心配されていた。岸田氏が地元に帰ってくると、『この選挙区でオレに勝てそうな候補者が出てくるか』と決まって聞くそうです。会議に参加している秘書らが『先生の相手になる者は誰もいません』と言うと、嬉しそうに笑うといいます。衆院広島1区は8回連続で岸田氏が圧勝ですよ。首相を狙うには、あまりに器が小さいと危惧されています」

 ポスト安倍の最有力とみられていた岸田氏が一歩後退となるとポスト安倍レースは混沌とする。

「岸田氏は今回の失態で脱落まではいかないが、求心力はかなり落ちたね。今、安倍首相が後継候補と考えているのは、河野太郎防衛相(麻生派)、茂木敏充外相(竹下派)、加藤勝信厚労相(竹下派)。ただ、年代的に少し若いので、つなぎ役として自民党の鈴木俊一総務会長(麻生派)も適任ではとの声が聞こえますね。お父さんは鈴木善幸元首相で麻生氏とは身内ですしね」(前出・自民党のベテラン議員)

 岸田氏は巻き返せるか。(今西憲之)

※週刊朝日オンライン限定記事

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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