文書にはいくつかバリエーションがあるようで、角田氏は東京都医師会が作成した3月24日付の「原本」だというフローチャートを示した。細部は違うが大筋は同じ内容で、肺炎の症状があっても3日ほどの自宅療養を指示するケースがあるなど「絞り込み」の基準はやはり厳しい。

 本誌に資料を提供した前出の内科医はこう語る。

「医師会としてもあの条件で何とか凌(しの)いでほしいという悲鳴に近いものがあるのでしょう。保健所に電話しても『朝から晩まで熱が下がらないという電話が鳴りっ放しで限界です。本当に申し訳ないがわかってください』と泣いています。政府は逼迫(ひっぱく)した医療現場の実態を認めて国民に説明し、対策を講じるべきです」

 もちろん、医師会もこうした状況を憂慮していたと思われる。3月30日の記者会見で日本医師会の理事が「緊急事態宣言は出していただいたほうがいい」と発言するなど、SOSはたびたび発せられていた。結局、安倍首相は4月7日に緊急事態宣言を発令。記者会見で、「このペースで感染拡大が続けば、(感染者は)2週間後には1万人、1カ月後には8万人を超える」と警戒感をあらわにしたのは、こうした声を受けてのことだろう。(本誌・亀井洋志、岩下明日香/高鍬真之、今西憲之)

※週刊朝日2020年4月24日号に加筆

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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